4 / 14
第4話:90日間の恋人
「好きなんだ、拓」
ある日親友である青森 海に告白をされたのは、大学生の赤木 拓。
中学からの親友である2人は、家族よりも一緒にいる時間が多いほどだ。
同じ大学に入ったのも、自然なことだった。入学と同時にルームシェアを初めて一緒の時間はより増えていった。
拓はノーマルで高校までは普通に女子と付き合っていた。
今は恋人はいないが、突然の親友からの申し出に拓は完全に固まった。
それは翌年に大学卒業を控えた年末その告白は突然だった。
いつもより海は緊張をしていた。それは拓から見ても明らかだった。
ここ最近はお互い大学とバイトで忙しく、中々顔を合わせていなかった。
落ち着いた年末のある日、海の告白に、拓は数秒固まってしまう。
「・・・・」
必死で冷静を取り戻そうと思考を巡らす。
一瞬冗談かと思ったけど、海の表情は真剣だった。
拓はなんとか言葉を絞り出し、
「そ、そう」
自分でもダサい一言だ。
気の利いた言葉は何も思い浮かばない。
こんな時なんて言えば良いんだ?
「いつから・・・?」
「・・・高校時代に拓に初めて彼女が出来た時、気がついた」
「へえ・・・」
結構前からだな・・・
「でも何で今告白したんだ?」
「大学卒業したら、きっとお互い忙しくて合うこと少なくなるかなと思って」
「ん、まあ確かに」
「あと3ヶ月しかないから」
と、海は拳をきゅっと握る。
「だから、お願いがある」
と、急に真剣な顔をして拓を見つめる。
拓も何故か背筋をぴしっとする。
「卒業するまでの3ヶ月だけ、俺と恋人になって欲しい」
「え・・・」
「そしたら、諦めがつくから」
「海・・・」
「お願いだ。それがダメなら年明け出ていく」
「いや、お前そんな急に・・・」
拓は戸惑う。
頭を下げる海の、その姿を見つめる拓は彼の真剣な気持ちはわかった。
でも、恋人?海と?親友ではある。
好き嫌いもお互い知っている。
「あのさ・・・」
「なに?」
「恋人って具体的にどうしたいの?」
「え」
「今だって一緒に暮らしてるし、バイトの時以外一緒にいるし」
その拓の言葉に海はじっと彼を見つめ、黙り込む。
よく見ると、海は色々想像したのか、赤くなっていた。
「もっと・・・近くなりたい」
「具体的に」
促されれ、海はさらに顔を下へ向け、
「・・・てをつないだり」
「うん」
「その・・・ぎゅってしてもらいたいし」
「うん」
「それから・・・・・・・・」
そのまま黙ってしまう。
「ごめん、忘れて」
そう言って、立ち上がり自分の部屋に戻ろうと立ち上がる海。
その手をガシッと、掴む拓。
「待てよ」
拓は、彼の手を離さないまま、
「一度口にしたんだ。無かったことになんてしないぞ」
海は小さくビクッと反応する。
「つまり、セックスしたいってことでいいか?」
「ばっ‼」
はっきり言葉にする拓の言葉に思わず振り返る海。
「恋人みたいにイチャイチャしたいって事でいいか?」
「ぐうっ」
「どうなんだ?はっきり言ってくれないと、俺もどうしていいかわからん」
海は再びうつむいて、
「ノーマルの奴に無茶苦茶言ってるのは分かるよ。ふつう気持ち悪いだろうし。初めから無理なこと言ってごめん」
「別に気持ち悪くはないよ。お前その辺の女子より綺麗だし。顔も性格も結構好きだし」
「へ?」
拓から見ても、海は整った顔立ちでガリ勉で地味な正確だが、大人しくしていると実は美形。
影ではファンの女子がいるとの噂も。
知らないのは本人だけだが。
「で?どうなんだ」
「・・・・触れたいし、触れられてたい」
絞るように口にした海。
それを聞いて、拓は海の頭を撫でた。
「分かった」
総返事をした。
「じゃあ、年明けから恋人って事で」
「え」
「よろしく」
そう言って、やけにあっさりと快諾する拓に手を差し出され、
戸惑いつつも海はその手をそっと握り返した。
こうして、3ヶ月限定の恋人契約は交わされた。
平然と快諾した様に見えた拓だったが、頭の中では混乱していた。
今まで親友として付き合っていた男に、突然恋人として接するのは難しい。
いきなり距離を詰めるのはきっと海をびっくりされるかもしれない。
しかし、拓は自分でも意外に感じていた。
普通の同性の親友同士なら、きっと疎遠になるくらいだろう。
でも、恋人にならないと、海はすぐ出て行こうとしていたからだ。
そうなればきっともう会うことはないだろう。
翌日。
洗面所に行くとすでに海が顔を洗っていた。
「おはよう、海」
背後から声掛けられて、海はビクッとする。
「おっ、はよう・・・」
その海の反応をじっと見て拓は、
「海、ちょっと話するか」
「え、うん」
2人はリビングのソファに座り、
隣に座るのにお互いの顔を見ずにまっすぐ前を見つめる。
「あのさ、どういうつもり?」
「何が?」
「自分で恋人になりたいっていったのに、めちゃくちゃぎこちないじゃん」
「・・・ゔっ」
「そんなんじゃ何にも始まらないぞ」
「だ、だって」
もじもじする海に、拓ははあっと溜息を吐く。
「3ヶ月しかないけどいいの?それで」
「・・・いやだ」
「じゃあ、腹くくれよ」
少しずつ慣れるために、とりあえず手を握る事に。
「ほら」
拓は手を差し出す。
海はその手をおずおずと握り返す。
海の手は緊張しているのか冷たかった。
でも、顔はどんどん真っ赤になっていく。
そんな反応が拓は少しだけ可愛く感じて、
「じゃあ、次」
「え、うん」
「ほら」
と、拓は両手を広げて見せる。
海はポカンとする。
「え?」
「ハグ」
「ええっ!?」
今まで聞いたことのない声を出す海。
拓は両手を広げたまま待っている。
海はニヤけそうになる顔を片手で隠しながら、
「は、ハグって意味分かって言ってる!?」
「お前の言っている恋人ってこういう事なんじゃないの?」
「そ、そうだけど」
「じゃあほら」
そういってハグ待ちをする拓。
海は両手で顔を押さえ、
「〜わかったよ!」
そうすると、ゆっくり拓の方へにじり寄る海。
拓はじれったくなり、ぐいっと海を自分の胸に引き寄せる。
「わわっ」
思わず気弱な声を漏らす。
拓はぎゅっと、でも、優しく海の肩を抱きしめた。
海の心臓は跳ね上がる。
今まで愛おしい気持ちを押し殺していたのに、
いざ拓に触れると、全身の神経が敏感になる。
身体をこんなに接触させることが今までなかったから。
拓の熱、心臓の鼓動、息遣い、
すべてが夢ではないことを物語っている。
同性で親友なのに、3ヶ月限定ではあるけど受け入れられるとは思わなかった。
妄想でしか触れられなかった拓の身体がすぐそこにあった。
まだ信じられない。
でも・・・
海は拓の背中に手を回した。控えめだけどでもキュッと抱きしめ返す。
「キスしても、いい?」
勇気を出して海は拓を見てそういった。
いいよと答える前に、拓は海の唇を奪う。
最初は触れるだけのキス。
一度放して、次は口を開けさせて深くキスをする。
口の中で舌が絡み合い、深く深く口を塞ぐ。
「っん」
気持ちよさそうに声を漏らす海。
その声がやけに色っぽくて、興奮する拓。
想像より気持ちよくて口を離せずにいた。
拓は海の腰をぐいっと引き寄せる。
お互いの股間が反応しているのに気がついて、
さらに赤くなる海。
「ごめんっ、俺・・・」
「何が」
「キスだけでこんな」
「謝るなよ、俺だって硬くなってきたし」
「へ?・・・んん」
海の声をまたキスで塞ぐ拓。
拓は自分が自分じゃないような感覚に陥っていた。
キスをして以来、
何をしていても海が可愛く見えて仕方がない。
一緒にご飯を食べていても、
朝起きて歯を磨いている姿も、
目が離せなくなっていた。
どうしたんだ、俺。
拓は自分にそう問いかけていた。
大学の中庭で一人昼食を食べながら、次の課題に頭を悩ませながらも。
目は遠くいる海を追いかけていた。
最近やけに大学で海と目が合う。
どうしたんだろうと考えたが、違う。
今までも海は拓を見ていた。
拓が海を目で追うようになって目が合う回数が増えたんだ。
海はずっと拓を見ていた。
中学の時からずっと。
意識しすることで、
今まで気が付かなかったことに、少しずつ気がついてきた。
目が合うのもそうだが、海は拓をよく見ているせいか、
拓が何かを探すと、
「ほら、メガネ忘れてるぞ」
「坂田教授の講義なら第2フロアだぞ」
気が利きすぎている。
今やそれが嬉しく思っている自分がいる。
(重症だな俺も・・・)
ベンチの上で一人頭を抱えた。
好きだと言われて
その気になって
何だよ俺、
単純かよ。
「たーく、何一人で唸ってんの?」
そう声かけてきたのは、
拓と海の友達である、高野 ユウキ。
ベンチの上で胡座をかいている拓の後ろから声かけてきた。
「ユウキ・・・何でもない」
「ふうん」
小柄で可愛い系のユウキは、海と並ぶと美男子コンビとして大学ではファンが多いのだ。
ユウキはじっと拓を見下ろし、
「最近、海となんかあった?」
「何で」
内心ギクッとしたが、拓は平然としたふりをした。
でもユウキにはそのわずかな反応は気がついていた。
ユウキは拓の隣に、ちょこんと座り、
「最近のー、2人の間に流れる空気がさ、
あま〜いよね」
「・・・」
拓は黙ってしまった。
「前までは、海が拓に一方的に甘々な視線を送ってたけどさー」
「ん?」
「今は拓の方が、海のことよく目で追いかけてるよね」
「え・・・?」
言われて、きょとんとした。
俺が、海を?
思ってもいない事を言われて、拓は考え込んでしまった。
「自覚なし?」
「ん〜・・・」
唸りながらも、視線を落したのは・・・
「今も見てるよ」
「・・・!」
完全に拓は、無意識に向かいの講義室に居る海をじっと見つめていた。
それに気がついて、急に恥ずかしくなり目をそらす。
これじゃまるで、
「拓って、海のこと好きなんだねぇ」
「・・・え・・・?」
ユウキの言葉に、拓は完全に目を点にした。
拓は頭を抱えて、
「・・・わからん」
「ふうん」
ユウキは、予鈴がなり次の講義に行くねーと、走り去ってしまう。
拓は慌てて中庭を駆け出した。
それを海は目で追っていた。
その日の夜。
バイトが休みだった拓は、一足先に帰って夕飯のしたくをしていた。
海の好きなハヤシライス。
「ただいまー、あぁいい匂い」
「おかえり、ハヤシライスだぞ」
「やった〜!拓のハヤシライス美味しいんだよね」
嬉しそうに海は家に入り、洗面所に手を洗いに行く。
(よかった、作って・・・)
ほっとして、食事の支度をする。
どれだけ海が自分の事を気遣ってくれているのか気がつくと、
なんだか自分も喜ばせたくなった。
というかなんだか甘やかしたくなって仕方がない。
「海」
「何?」
食事をし片付けをしてソファでコーヒーを飲んでいると、
拓から話しかけられた。拓はコーヒーの入ったマグカップをテーブルにおいて、海の隣に腰掛ける。
「せっかく恋人なんだから、もっとわがまま言っていんだぞ?」
「え」
拓は海の方を向きながら、背もたれに頬杖を付き、
「したいこと言っていんだぞ?何でも」
なんてことを真面目に言ってくる拓に、
海は彼の誠実さや優しさをこれ以上ないくらい感じていた。
海は色々考え、照れながらモジモジし始める。
それを見ながら拓は内心可愛いと思いながらも、
「ほら、何でも言えよ」
すると、海は急に熱っぽい視線になり上目使いで、
「・・・キス」
かすれるような小声でそう言ったから、拓は頭を押さえ、
「何でそんな可愛いんだよ・・・」
「え?可愛・・・あっ」
拓に腰をぐいっと引き寄せられ、彼の足の上に乗りかかる。
そのまま唇を奪われる。
「んっ」
唇が触れるたびに全身が痺れるようだ。
拓は自分にキスしてくれている。こんなに積極的に。
嬉しくてどうにかなりそうだ。
そしてお互いのモノが硬くなって押し付けられてビクッとなる。
拓は口を放して、じっと海を見つめ、
「下触ってもいい?」
彼の耳元でそっとつぶやく。
自分の股間が硬くなっているのに気がついたが、何より驚いたのは拓が硬くなっていた事だ。
「な、なんでお前も硬くなって・・・」
「お前いちいち可愛いんだよ」
「へ?」
「それにエロいし」
「どっちがっ、あっ」
言ってる先から、拓は海のズボンの中に手を入れて硬くなったモノをこすり始める。
「あっ・・・は」
感じて気持ちい声を漏らす海。
拓は海のシャツをめくりあげ乳首を舐める。
「いぁ・・・、拓っ」
そのまま海の滑らかな肌を腰から背中をゆっくり撫でていく。
そして2人のモノをくっつけて手を早めて扱いていく。
「あっあっもう、イッ」
2人同時にイッてしまう。
その後風呂に入り、
イクときの海の顔を思い出し、赤くなる拓。
(何やってんだ、俺)
海に告白されてから、一ヶ月が経った。
その間に水族館やカフェに行ったり、
デートを繰り返した。
でもお互い卒業後の準備で忙しかった。
2月に入ると、就活の準備や引っ越し先を決めたり、
一緒にいる時間は減っていった。
今日も海は出掛けていて、拓は一人で大学の食堂で昼食を食べていた。
「はあ・・・」
少しだけ甘い雰囲気になっていたのに、最近はあまり海と一緒に居れないためか、拓は溜息が増えていた。
「寂しそうねぇ、拓」
相変わらず呑気なユウキがアイスコーヒーを片手に向かいに座ってきた。
そんな彼をじとっと見つめ、
「いいよなぁ、お前は実家継ぐんだし。気楽だよ」
「失礼ねぇ、一応有名な会社なんだけど」
ユウキの実家は老舗の料亭で、今までは従業員として働いていたが社員になることになったそうだ。
「うそだよ」
「わかってるって」
ふふっと笑いユウキは冬なのにアイスコーヒーを飲みながら、
「でも海も大変だよね」
「んー?」
「だって、春からアメリカでしょ?いくら親戚の会社だからってさー」
「え・・・?」
アメリカ?
誰が?
「今なんていった?」
拓は顔を上げてユウキを見つめた。
ユウキはきょとんとして、
「親戚の会社?」
「春からアメリカって?」
「海がだよ。あいつってずっと海外で暮らしたい夢があったからー。たまたま親戚がアメリカで会社をやっていてさー」
ユウキの言葉は途中から耳に届いていなかった。
アメリカ?
海が?
春から海外に行くから、
俺に告白したのか?
もう会えないから?
ユウキはじっと拓を見つめて、
「もしかして聞いてないの?」
「・・・なにも」
「言っちゃダメだったやつかな・・・?」
と、今更口を抑えるユウキ。
「いや、いいよ」
そう言って話に割り込んできたのは、
「う、海・・・」
呆然として見上げる拓。
海は笑っていなかった。
真っ直ぐ拓を見て、
「大学卒業したら、俺アメリカに行くんだ」
目の前が真っ白になった。
これからも何も変わらないと思ってた。
ずっと一緒に居ると思ってた。
自分だけが。
でも違った。
違ってた。
家に帰り、
ソファに呆然と腰掛ける拓に、
海は冷静に言葉を続けた。
「同性の恋愛なんて続かないよ。
幸せにもなれない。
拓には幸せになって欲しい。
綺麗で優しいお嫁さんをもらって、
可愛い子供を作って。
家族が増えて。
普通の幸せを
これからの人生で味わって欲しかった。
だから、忘れるために。
思い出にするために、
3ヶ月だけ恋人になりたかった。
勝手でごめん」
そう言って、海は自分の部屋に入っていった。
拓は、自分の周りだけ時間が止まってしまったような感覚を覚える。
自分はショックを受けている。
海が自分から離れていってしまう事に。
今まで一緒に居て、何を見てきた?
海の気持ち、
表情、
声、
熱、
あの笑顔・・・
中学の頃からずっと一緒だったのに、
何に一つ気が付かないで。
ガチャリ・・・
拓は黙って、海の部屋を開ける。
海はベッドの上で布団をかぶって蹲っていた。
その布団を思い切り剥ぎ取る拓。
海は上はシャツのまま、下は何も履いていない。
自分で後ろに指を挿れてイジっていた。
同時に前を触りながら、
「んっああ・・・」
拓に見られても、海は止めない。
感じている自分を、恥ずかしい自分を見られても、
いや、見られているからこそ興奮している。
拓は海のあられもない姿を見て、そのままベッドに飛び乗った。
泣いてぐしゃぐしゃの海の顔を見つめ涙を拭いてやりキスをする。
拓は自分のセーターを脱ぎ捨てる。
海の身体を仰向けにさせて、シャツを脱がせてやる。
彼の赤く火照った身体を愛撫していく。
この愛おしい男を、
拓はずっと見てきた。
ずっと一緒にいた。
中学の頃からずっと、
拓は海の後ろに自分の硬くなったモノを一気に挿入する。
叫ぶように喘ぐ海。
腰を揺り動かしながら、
2人は気持ちよさに何も考えられないまま、
抱き合った。
拓はずっと涙を流していた。
これからも一緒に居たいのに、
海が離れてしまうことが、
こんなにショックで
悲しい。
海がいない世界なんて、
生きてる意味がない。
そう思えるくらい、
拓は海を好きだと言う事に
やっと気がついた。
でも、
2人が一緒にいる時間はもう
期限が迫っていた。
3月。
2人はそれぞれ、引っ越しを済ませ一緒に住んでいた部屋を出た。
拓は一度実家に帰り、
一人で自分を向き合っていた。
リリリ・・・
ベッドに放っておいたスマホが鳴る。
「はい」
《拓!今どこ?》
声の主はユウキだった。
拓はベッドに寝転んだまま、
「どこって、実家」
《はあ!?何のんびりしてんの》
「?何が」
「海今日の昼の便でアメリカ行くんだよ!」
そういわれて、ガバっと起き上がる拓。
でも、すぐに寝転がり、
「仕方がないよ」
《ぬわにが仕方ないの‼!》
スマホ越しに全力で怒るユウキ。
ユウキがそんなに怒っているのは初めて聞いた。
「海の気持ちも知らないで!」
本気で怒っていた。
拓はどこか不貞腐れながら、
「どういう意味だよ」
するとユウキは、
《海はずっと、気がついてたんだよ。拓の気持ち》
「俺の気持ち・・・?」
一瞬、疑問を持ち言葉を促す。
《よく考えてみて。飛行機は12時30分だからね!》
そこでスマホは切れた。
「・・・・なんだよ」
あいつから離れて言ったんじゃないかよ。
そう思いながら、拓はベッドで蹲った。
もう会えない。
海はきっと二度と自分とは会う気がないんだ。
拓は目を閉じた。
その瞼の裏に浮かぶのは、
海の泣き顔。
なんでお前が泣くんだよ。
俺は、お前の笑顔が見たいのに・・・
必死で笑ってる顔を思い出そうとする。
拓はハッとして目を開ける。
海の笑った顔、
それを思い出そうとすると、
中学のときに出会って、
親友になって、
その時は良くお互い笑い合ってた。
ただ無邪気に。
高校に入ってから、
海に彼女が出来て、
それを聞いた拓は・・・
ショックを受けた。
だから自分も彼女を作った。
(え・・・?)
ショック?
俺が・・・?
『いつから俺のこと好きだったんだ?』
『高校の時、拓に彼女が出来た時』
海はこう言っていた。
でも違う、
最初に彼女が出来たのは海の方だった。
ショックを受けたのも、
俺が先・・・
今思えば、
同じ高校行こうと言ったのも、
同じ大学行こうと言ったのも、
ルームシェアをしようと誘ったのも、
全部、拓からだった。
キスしたのも、
抱きたいと思ったのも・・・
全部、拓からだった。
スマホにラインの通知音。
画面を見た拓は、
何も考えずに、
家を飛び出していた。
空港までは、実家の方が近い。
出発まであと、
20分。
ーーー拓へ。
こんな形で俺の気持ちを残すのは不本意だけど、
きっと電話には出てくれないと思うから。
ずっと嘘ついててごめん。
拓の気持ちに気が付いていながら、
気が付いていないふりをしていた。
高校の時からずっと。
だって、拓ってば無自覚なんだもん。
必死で俺から離れたくないと、
行動は訴えているのに、
拓は何も言わないから、
わざとかと思ってたけど、
本当に拓は自分の気持ちに
気が付いていなかったんだな。
だから、
俺から告白して、
気が付いて欲しかった。
俺のこと早く好きだと気が付いて欲しかった。
大学卒業したら、
離れてしまうから。
俺は、アメリカに行って仕事する事が小さい頃から夢だったから。
拓は大事な親友だったし、
自分に正直に生きてほしかったから。
でも、いつのまにか、
俺も拓の事好きになってしまったんだ。
寝癖だらけで歯を磨いている朝も、
自分が美味く出来たハヤシライスを
俺によそってくれる所も、
片付けが苦手な所も、
いつも俺のこと目で追いかけてくれている所も、
そんな何気ない事でトキメクようになって。
正直焦った。
離れるのに、好きになったら。
悲しい思い出になるから。
だから、
最後に賭けたんだ。
拓の気持ちが動いたら、
今度こそ自分に正直に生きようって。
離れて居ても、
拓のことが好きです。
でも、
拓は俺のこと忘れてください。
さようならーーーーーーーーーーーー
っ何が、
「何が忘れてくださいだ‼」
空港の中で、そう叫んでいた。
全力で走りながら。
「海‼」
空港のベンチで飛行機の準備を待ってた海を見つけ。
拓は肩で荒い息を付きながら、
彼を睨んだ。
海は呼んでいた本をパタッと閉じて、
「思ったより早かったね」
平然とそうつぶやいた。
彼の方は見ないまま。
鞄を肩にかけて、
真っ直ぐ海は、拓を見つめた。
彼はもう笑っていない。
いつもの優しい雰囲気はない。
冷静にこちらを見つめ、
「今更なに?もうお別れなのに」
「海、俺・・・」
上手く言葉が出てこなくて、
拓は戸惑った。
今言うべき言葉が見つからない。
「今までありがとう拓。
もう二度と会うことはない」
そうはっきり口にした。
吐き捨てるように。
拓は、拳を握りしめ・・・
「俺のこと忘れてしまうかも知れないから?」
乗降口に向かう
海の足が止まる。
拓は、そのまま続けた。
「腫瘍あるんだってな。
脳の近くに。
手術が失敗したら、
記憶がなくなってしまうかも知れないから、
だから、忘れろっていうんだろ?」
海は振り向かない。
「ユウキ問い詰めた」
黙ってろって言ったのに。
「嘘つきはお前だろ!
人に忘れてくれって言ってるくせに・・・
俺には忘れてほしくないって聞こえるんだよっ!」
泣きながら拓は叫んだ。
シャツの胸の部分をぎゅっと掴んで、
「頼むからっ、
もう合わないなんて言うなよ!」
泣きながらうずくまる。
「お前が忘れたって、俺が覚えてるから‼」
拓は、今までで一番正直に胸の内を言葉にした。
「何度だって好きにさせるから!」
ずっと好きだったのは、拓の方だった。
いつだって見てた。
今思えば、
大学に入った後から、
よく頭を押さえるしぐさが増えていた。
頭痛もするとよく言っていた。
忙しいといって会えない時は、
病院に行っていたらしい。
海はただ自然に流れていく大粒の涙を止める事なく、
振り返った。
「忘れたくない・・・
拓のこと、
忘れたくなんかない‼」
初めて見る弱音をはく海の身体を
拓はぎゅっと抱きしめた。
強く強く。
こんな思いをずっと一人で
海は抱えていたのか。
もっと早く気が付いてやりたかった。
そばに寄り添いたかった。
大事にしたかった。
この世で一番大切な彼を。
「絶対わすれないから」
「っあああああ‼‼」
力強い拓の言葉に、海は大声で泣いた。
まるで子供の様に。
3年後。
「ただいまー」
拓は玄関のドアを開けて、部屋へ入っていた。
「おかえり拓」
ゆっくりと玄関まで彼を迎えに来た海。
手術後、最初は記憶障害があったものの何とか記憶には影響はない。
ただ、腫瘍が視覚神経を圧迫していた事で、右目の視力はぼやけている。
ただそれだけで済んだ。と、海は笑っていった。
拓は、自分の事を見つめる海を嬉しそうに見つめ、
彼のおでこにキスをする。
すると、
「そこじゃないだろ」
と、頬を膨らます海。
その海の反応に、拓はふっと笑い彼の口にキスをした。
終
ともだちにシェアしよう!