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第5話:君のシグナル

風間 令(21)は大学1年生。マンションで一人暮らしをしている。 バイトと仕送りで何とか暮らしてもうすぐ3ヶ月。 彼はいわゆるゲイで、彼氏は一度も出来たことがない。 理想の相手は中々現れないが、ある日偶然書店で見つけたBL小説で妄想をしながら 日々自分で後ろを開発している。 そして今日も・・・ お気に入りのローションとLサイズのディルドをベッドサイドから取り出し、先程シャワーで綺麗にし慣らした自分の後ろに挿入していく。 「っはあ・・・」 声が大きくならないようになるべく声を殺して、ディルドを抜き差ししていく。 色々試してみたが、Lサイズのディルドが一番居所に届いて気持ちいい。 「っは、ああっ」 お気に入りのBL小説のやらしい場面を想像して、妄想を膨らませる。 俺様のイケメンに抱かれたい・・・ 自分の想像の中の恋人に後ろから抱きしめられ、腰を動かされる。 そして一人で果てる。 隣に住んでるイケメンにいきなりキスされたり・・・ まるで小説のような強引な男と出会いたい。 なんて想像しながら、令は眠りについた。 実際の隣の部屋には人が住んでるが、今まで一度も住人を見かけたことがないのだ。 どうやら在宅で仕事をしているようだ。 時々人が訪ねては帰っていく。 今日は大ファンの「皐」先生の新刊の発売日。 皐先生はBL小説家。男女ともに人気があるが、顔出しは一切していない。 いそいそといつもの駅付近の本屋に寄って本を手に帰宅する。 マンションの部屋の鍵を開けていると、廊下の向こうから一人の男性が歩いてくる。 長身でラフなストレートジーンズに白いシャツ。 どうやらコンビニに買い物に出ていたようだ。 令の隣の部屋の隣の前で立ち止まりガチャリと鍵を開ける。 「あの」 ふと、令は彼に声をかける。 その男はふと振り返る。 令はその男の顔に思わず言葉を飲み込む。 切れ長の目にスッと通った鼻筋、綺麗な肌に色っぽい唇・・・ モデルか、まるで物語の王子様みたい・・・ 令が彼に見とれていると、 相手の男も面食らったように驚いた顔をしていたが、ふと冷静になり、 「隣に引っ越してきた風間 令です。あまりお会いできなかったのでご挨拶が遅れてすみません」 とニコっと笑い、握手をしようと手を差し出した。 相手の男は上から下まで令を見定め、差し出された令の手をぐっと握り、 「!?」 男はそのまま令を自分の部屋の玄関に引きずり込む。 ドアを締めた瞬間、 「んむっ!?」 男は令に突然キスをしてきた。令は慌てて男から口を離し、 「なっ何してんですか!?あんた」 言いながら綺麗な顔が目の前にあり、ドキリとする。 男は何がおかしいのかという顔をしている。 「あんたじゃないアキラ、五月アキラだ」 と、名のりもう一度令にキスをする。 「んん」 今度は深く舌を入れてくる。 令の腰を引き寄せズボンの上からお尻を触ってくる。それに令はぞくぞくしていく。 股の内側を撫でられ、血が上ってくる。 (何この人、キス上手すぎる・・・) 拒否できないくらいキスが上手い。もっととろけたい。 「し、初対面なのにこんな・・・」 ぼうっとして彼を見上げる。 彼はそのきれいな顔で、 「初対面じゃないけど」 「え?」 妄想のようなことがあったあの後、 アキラと名乗る隣人の部屋でコーヒーを出されながら、彼の説明を聞くことに。 「お前の大学に坂下って教授がいるだろ?」 「え、坂下教授にはいつもお世話に・・・」 「そいつ俺のイトコ」 「え」 「俺時々大学に手伝いに行ってるから、その時にお前のこと見かけて哲司にお前のこと聞いて」 哲司とは坂下教授の名前である。 「哲司がお前のこと良い生徒だって褒めるから、どんな生徒かとか色々聞いて」 「ええ・・・」 「しかもお前俺のファンらしいな」 この男が何を言っているのか分からかい。 たまたまさっき玄関でキスされた時に落ちた時に見たのか、令のカバンから今日購入した本を取り出し。 「俺の書いた本」 「え」 ? 「俺が《皐》だ」 「え?何冗談いってんですか。皐先生が誰か分かっているんですか?」 「BL小説だろ?だから俺が書いてるから知ってるって」 この部屋をよく見ると、部屋中には一面の本棚。 あらゆるジャンルの本が並べられているようだ。 窓際のデスクにはデスクトップパソコンと、リビングのソファにはノートPC。 窓際の棚には数個のトロフィーと賞状。 その名前には皐様と書いている。 「・・・・」 「お前いつも隣の部屋で自分でシてるだろ?」 「?なにを」 「やらしいことだよ。自分でいじってんだろ?」 その言葉を聞いてきょとんとする令。 (なんでしってんだ?) 「喘ぎ声が聞こえるんだよ。お陰で小説家捗るけどな」 「えええ!?」 それを聞いて今度は真っ赤になる令。 考えてなかったけど声漏れてたのか・・・ 自分でしてる時は何も気にしていなかったけど、普通に恥ずかしい! どうリアクションすれば良いのかわからない。 「す、すみません・・・でした」 といって、いたたまれなくなり帰ろうと立ち上がると。 アキラにぐいっと手を引かれ、彼の膝の上に座られられる。 「!?」 びっくりして彼の顔を見つめると、 彼は令をジッと見つめていた。 覗かれると吸い込まれそうなその綺麗な目で・・・ 「やらしい声聞かせろよ」 「え、なに」 「今ここでいつもしてるみたいに、自分で弄ってみろよ」 「ばかいうな!できるかよ」 「じゃあ俺がしてやるよ」 と、アキラはぐいっと令のシャツをめくり上げ、彼の乳首をちゅうっと吸う。 「やあん」 やらしい声を出してしまい、令は自分の口を慌てて押さえる。 その反応を見て、アキラはニヤッとする。 アキラは続けて令の乳首を今度は舌でれろれろと撫で回し、 同時に背中の背骨の上を指でなぞる。 それに令はぞくぞくして、感じていく。 股間がドンドン膨らんでいって、アキラが令のズボンを脱がせお尻を直接触る。 柔らかさを確かめるように優しく撫でて、背中とお尻の付け根に指をすべらせる。 「や、やめ」 「前と後ろとどっちがいいか言ってみな」 「やああん」 足の付根を撫でられ、気持ちよさに声が押さえられない。 令はすでに完勃ちしていた。アキラはそれをまじまじと見つめながら、 「ほら、言えよ」 「・・・うしろ」 もう訳がわからなくなっている令の答えに、 「いい子だ」 アキラは令の後ろに指を入れ解していく。 昨日自分でいじっていたのだろう。 あまり慣らさなくても、柔らかくなりそうだ。 アキラは令をソファに押し倒し、 自分の硬くなっているモノを令の後ろにぐいっと押し付ける。 「挿れるぞ」 「まっ、あああ!!」 待てと言うより早く、すんなり令の後ろに太くて硬いものが挿入されていった。 Lサイズのディルドなんかよりすごい。 熱くて硬くて、抜き差しされる度に奥が気持ちよくて、 「あっあん、あんっ、あんっ、何これぇ」 声が止まらない。 気持ちよくて、おかしくなりそう。 「まだだ」 アキラはゆっくり抜き差しすると、今度は勢いよく奥まで突いて腰を動かす。 「あああん、そんな早くしたらイッちゃうぅ」 「俺ももう出る」 ソファの軋む音が部屋に響き、 同時にイッた。 はあっはあっ・・・ 荒い息を吐いて、ソファから起き上がれない令。 今日初めて話した男、しかも大好きな《皐》先生に、 抱かれてしまった・・・ しかも、令は気が付かなかったが、ちゃんとゴムをしていた。 中に精液が溜まったゴムを外して捨てるアキラ。 アキラはソファに座り直し、タバコを吸い始める。 タバコの煙を吐きながら、ふと令を見てぎくっとした。 ソファに横たわる令は泣いていた。 「・・・泣いてんのか」 「初めてだったのに」 「・・・」 まさか泣かれるとは思っておらず、 「何なんだよあんた・・・気軽に人のこと抱きやがって」 令は立てないので、ソファから動けないまま毒づいた。 しかも泣きながら続ける。 「俺はあんたの小説が大好きなのに。憧れだったのに」 そう言いながら袖で涙を拭う。 「遊びで人のこと抱くんじゃねえよ」 「誰が遊びなんて言った?」 黙って聞いていたアキラはいい加減黙っていられないのか口を出してきた。 「遊びで誰かを抱いたことなんて一度も無い」 「え・・・」 びっくりしている令はふと、アキラを見つめると、 アキラはタバコの火を消して、ソファに横たわる令に向かい合う。 「好きだって言ってんだよ」 こうして令は憧れの小説家から告白を受けたのだった。 翌日、 令は自分の部屋のベッドで目を覚ました。 昨日は隣に住むアキラと名乗る男と、 引っ越して初めて顔を合わせそのままセックスをした。 アキラは令が憧れているBL小説家《皐》だった。 彼は以前から令の事を知っていたと言っていた。それに・・・ 『好きだって言ってんだよ』 昨日は夢心地の気持ちで隣のアキラの部屋から、自分の部屋に帰ってきた。 昨日後ろに挿れられ、正直令は腰がダルくて動けないでいた。 今日は大学を休んで一日中眠ろう。 でも・・・ 気持ちよかった。 これ以上無いくらい。 最高に。 半ば襲われた形だったがしっかり挿れられた。 初めてだったが全然痛くない所か、 気持ち良すぎておかしくなるくらいに。 あの綺麗な顔で見つめられて、 アキラの雄丸出しの顔がたまらなく格好良くて・・・。 小説家でインドアなくせに意外と筋肉質の身体、 モデルのようなかっこいい声と顔と・・・ そんな男が自分を好きだというのだ。 やばい。 好きな小説家を、男として好きになりそうだ。 勘違いするな。 きっと何かの間違いだ。 あの皐先生がそんな事言うはずがない。 でも尻にまだなにか挟まっている様な感覚。 昨日の最中の事を思い出し、 令は一人で真っ赤になり、ベッドの上でゴロゴロと転がる。 全て夢だ。そう思おう。 翌日。 2日ぶりに大学に向かい、坂下教授へと挨拶をしに行くと、 コンコン 「坂下教授、頼まれていた本遅くなってすみません・・・」 教授の部屋を開けると、 「こんにちは風間くん」 いつものように笑顔で迎えてくれる教授の隣には、 「よう」 アキラがいた。 心臓が飛び出しそうなくらい驚いて、声を失って立ち尽くしていると、 「いやあ、2人が仲良くなって良かったよ♪」 「違います!」 呑気に言う教授に、令は即座に否定した。 「だって、君のあこがれの小説家だよ?」 「そ、そうですけど・・・」 そう言って、ちらりとアキラを見る。 今日は高級そうな黒のストライプの細身のスーツを着ている。 ムカつくがカッコいい。 そんな彼と目が合う。アキラはふっと笑う。 またそれが綺麗で格好良くて。 「仲良くはなってません!」 教授から頼まれた本を渡して、令はそくざに部屋から退室する。 「あーあ、嫌われちゃったよ〜」 いつものようだと言うかのように、呑気に声を上げる。 「本気になると強引に迫る癖、どうにかしたら?」 「それじゃ俺じゃない」 「でもそれで嫌われたら元も子もないでしょ?」 坂下教授の言葉に、何のその。アキラは自信満々に、 「別に嫌われてはない」 言ってタバコを取り出し、咥えようとしながら、 「あいつが素直じゃないだけだ」 「アキラ」 「ん?」 「ここ、禁煙」 「・・・」 アキラは無言でタバコをしまう。 その夜。 令はバイトを終え部屋に帰ってきて、 ふと先日購入した皐先生の新刊を読まずにそのままデスクの上に置いていたことを思い出す。 椅子に座りそのまま本を読み始める。 (ま、まあ作品には罪はないしな) なんて毒づきながら、ペラペラとページをめくる。 物語は一人暮らしの大学生が、同じマンションの隣の部屋に住む作家志望のサラリーマンを好きになる両片想いのBL小説。 「・・・」 令は黙って読み進める。 大学生は一人隣の男を想いながら自慰行為にふけって・・・ ピンポーン、ピンポーン、 「開いてる」 ガチャ! 「何ですか?この話!」 と、アキラの部屋に乗り込んでいく令。 アキラはパソコンに向かっていた。 「仕事中なんだが」 「あ、すみませ・・・って、違う!」 一瞬反射的に謝ろうとするが、はたっとアキラのもとに来た理由を思い出し、 「何ですかこれは!」 そういう令の手に握られている自分の新刊をまじまじと見つめて、 「新刊」 「いや、内容ですよ!何だよあのエピソードまんま俺じゃん!」 「言ったろ、お陰で小説捗るって」 令が隣の部屋で自分でイジっている声を聞いてその小説を書いたというのか・・・ 恥ずかしすぎる!! 「なっなっ」 顔を真っ赤にして怒る令に、アキラは令の方に身体を向け、 「なかなかヤラシイ声で自分でオナってるからさー、色々想像できた。まあ本物の方が何倍も良かったけどな」 良かった・・・? 時間差で、こないだのセックスの事を思い出した。 更に赤くなる。 今さらながら、キスの感触や、 肌を触られた時の気持ちよさと恥ずかしさを生々しく思い出す。 そんな令を見てふっと笑い、 「何思い出して照れてんだよ」 「そ、そんなこと」 「勃ってんじゃねえか」 「え?」 令は指摘されてふと自分の股間に目をやると、 少し勃っていた。 「!いや、これはっ」 生々しく思い出してしまったせいで、どうやら無意識に反応してしまったようだ。 慌ててシャツを引っ張り股間を隠す令。 恥じらう令を嬉しそうに見つめ、 「お前さ、自分で弄ってるくらいなんだから、ヤラシイこと好きだろ?」 「べ、別に好きなんかじゃ」 そういって顔をそらして、 「やらしいのは、あんたの小説だろ」 皐先生の小説を読んでると、何故かとてもヤラシイ気分になってしまうのだ。 紡がれたその言葉達を読んでいるだけで、想像力が働いて、思わず自分で気持ちよくなりたいと思ってしまう。 「お前が俺の小説読んでやらしい気持ちになるのは、俺がお前の声を聞いてヤラシイ気持ちになってるからだって分かんねぇの?」 「え・・・」 気がつくと、アキラは立ち上がって令の目の前に来ていた。 アキラの方が身長が高い。令はアキラを見上げ、 「どういう意味」 「俺がお前に欲情しながら書いた小説だから、お前も興奮するんだろうが」 言って、アキラはきょとんとする令を片腕で引き寄せ、 令の首にキスをして彼の耳元で、 「最後まで読んだか?」 「い、いや、まだ・・・」 首筋にキスされてゾクゾクしながら答える令。 アキラはふっと笑い、 「じゃあ最後まで読んでみな。文句はそれからだ」 そう言って、アキラは令を離してやる。 令は逃げるようにアキラの部屋を出た。 自分の部屋に帰って、 令は腹が立ちバンッと床に本を投げつけ、 「・・・」 しばらくしてそっと拾い上げ、ベッドの上に置く。 とりあえず夕食を済ませ風呂に入り、寝る用意をしてから、 ベッドの上で改めて、皐の小説をパラパラとめくる。 ーーーーー主人公は一人暮らしの大学生『カイ』。 同じマンションの隣の部屋に住むサラリーマンらしき男の事が気になり始める。 隣の部屋から物音がするたびに壁に耳をくっつけその存在を確かめるようになり、 いつしか妄想でその男に抱かれるようになる。 だが、サラリーマンの方はもっと前に、大学生の彼を見かけて一目惚れをしていた。 いつか話してみたい。その身体に触れてみたいとずっと妄想をしていた。 隣の大学生が一人でする声が聞こえる度に、サラリーマンもその声を聞いて一人で自慰にふけっていた。 自分より若い男の身体を想像し、ハリのあるその肌を舐め回し愛撫し、大事な部分を擦って・・・ 郵便物が間違って入っていた事で、2人は直接話をする。 話を聞くと、出身大学が同じで話が盛り上がり、 いつしか一緒に夕食を食べる親友のような間柄になり、 ある日酔って寝てしまった大学生は、サラリーマンの男が眠っている自分を見て一人で自慰に耽っていることに気がついてしまう。 起きた大学生は彼の自慰を手伝い始め、そのままサラリーマンの男に抱かれるのだった。ーー 「・・・」 令は最後まで読んで、本をゆっくり閉じた。 これはまるで告白だ。 この内容は、まるで自分からよりも先にアキラが令を好きだったような文面だ。 確かにアキラは大学で令を見かけたことがあると言っていた。 でも、自分を想って、アキラも自分でシてたってこと? そんな馬鹿な。 たとえあんなにいけ好かない奴でも、一応人気作家だ。 こんな平凡な大学生の自分を好きになる要素がどこにもない。 でも・・・ 気がつけば、自分が勃っていることに気がついて一人で赤くなる。 小説を読みながら、アキラが自分でシている所を想像してしまった。 あのキレイな顔で、綺麗な指で令を想像で抱きながら、 イジっていたというのか。 一度抱かれてしまった事で、やけに生々しく想像できるようになってしまった。 『好きだって言ってんだよ』 「・・・っあ」 あの声を言葉を思い出して、令は目を閉じながら自分のモノを擦り始める。 強引なのに優しいあの手に触れられて気持ちよくなるあの感覚。 忘れられない。 後ろが疼く。 自分で指を入れてみるが、良い所には届かない。 もう一度抱かれたい。 あの大きなモノで奥まで突いて欲しい。 「あっ・・・ん」 (別に好きなんかじゃない・・・) 一人でイッて、冷静になる。 何をやっているんだ自分は。 我に返ってベッドに潜り込んだ。 翌日。 「お前料理上手いな」 「・・・どうも」 早朝から玄関のチャイムが鳴った。 昨日遅くまでバイトで忙しかったので正直眠い。 無理やり起こされて、自分の家に朝食を作りに来いといわれ、 なぜか隣のアキラの部屋で朝食を2人で食べている。 何なんだこの男は。 別に仲良くなったわけじゃないのに、 突然飯作れっておかしくないか? 確かにこの男は、人気BL小説家だし令の憧れの作家でもある。 しかし実際は、 突然家に訪ねてきたかというと飯を作ってくれと言われ、 白米に焼き魚、昨日の大根の煮付けとわかめとネギ豆腐の味噌汁を用意した。 普段朝は時間がないので、休日くらいはちゃんとした食事を心がけているのだ。 料理も実家でも作っていたので一通り作る事ができる。 むしろ料理は好きな方だ。 テーブルの向かいで令の作った朝食を口にしているアキラを見つめていると、 「どうした?」 「・・・食べ方綺麗だなと思って」 素直に感想を口にする令。 アキラはふっと笑い、 「人に作ってもらったんだ。大事に食べるのは当然だろ」 意外な言葉に令は面食らう。 そんな事を考えているなんて思っていなかった。 「ごちそうさま。美味かった」 「そ、それはどうも」 綺麗に朝食を食べてアキラはお茶を飲み干す。 令はそっと食器を片付け、 「じゃあ、俺自分の部屋に帰ります」 と、アキラの部屋を出ようとすると、 ぐいっと腕を引かれる。 「なんですか?」 「まあゆっくりしていけよ」 何故か帰るのを引き止めるアキラ。 「悪いんですけど俺昨日バイトで遅くて、もう一回寝たいんです」 令の言葉にアキラはふっと笑い、 「家で寝ればいだろう」 「は?何いってんむ」 と、断るより早く、強引にキスをされて言葉を遮られる。 腰をぐいっと引き寄せられ、お尻を掴まれる。 令はキスだけで気持ちよくなり、目がとろんとなりながら、 「ちちょっと・・・」 令の言葉は無視して、 アキラは令を自分のベッドに寝かせる。 自分はベッドに背を向け座椅子に座り、ノートパソコンに向かい仕事を始めてしまう。 カタカタとキーボードを叩く音を聞いて気持ち良くなりながら、 いつの間にか令は眠ってしまっていた。 令が眠ったあと、アキラはベッドで眠った令をじっと見つめた。 大学で見かけた時、アキラは少々スランプ気味だった。 令の生き生きしていた姿を見て、 もう一度頑張る事が出来るようになった。 その日から令を見かける度に目で追うようになっていた。 隣の部屋に住んでいることがわかった時は正直驚いた。 そして隣の部屋から色っぽい声が聞こえて、 恋人が出来たのかと思って諦めようとしたが、一度も恋人の影は見えない。 そしてある日気がついた。 彼は一人でシている。 艶めかしい喘ぎ声を聞いて、釣られて自分でシてしまった。 そしていつしかその声を身近で聞きたい。 この手で触れてみたい。 抱きたい。 そう思うようになった。 令が自分のファンである事を、イトコの坂下教授に聞いた時に自分の気持ちを作品にしてみようと思った。近づくことが出来ないならせめて小説の中で想像を形にしたいそうして新刊を書いた。 なのに令の方から声を掛けてきた。 その声も、顔も全て触れたいと思ってしまった。 半ば強引に抱いた自覚はある。 でも、想像以上だった。 抱いた時の令の素直な反応は今思い出しても可愛くて、 何度でも奥まで突いていたいくらい気持ちよかった。 また抱きたい。 でも、ただ身体が欲しいわけじゃない。 アキラは眠る令の髪を優しく撫でる。 髪を撫でられて、 「ん・・」 眠りながら嬉しそうに少しだけ笑う令。 (何だよ、その反応) 寝ながら可愛い反応をする令に一人トキメキつつ、 またノートパソコンに向かい筆を進める。 ーーーー大学の中庭 ある日出会った一人の男性を思い出す。 ベンチに座っていた令の隣に座り、 『隣いいですか?』 男は控えめに問いかける。 青年は読書をしていたが本から目を離さず、 『どうぞ』 それだけいって、少しだけベンチの端に身体を避ける。 男は仕事で煮詰まっていた。 知人である教授に呼ばれて来たが、現在彼はアイデアが浮かばず、 何故この仕事をしているのか分からなくなってしまったのだ。 男は自分のバッグに入れていたペットボトルのお茶を一口だけ口に含んでふうと息を吐く。 男は集中して本を読んでいる隣の青年を見て、 自分と違って大学生である彼には、この先も夢や希望があるんだろなと、 ぼんやり考えていた。 『その本、面白いですか?』 こちらに気が付かない青年にふと尋ねる。 青年は目を本から離さないまま、 『面白いですよ。自分が好きな作家ですから』 『何故その作家が好きなんですか?』 『何故って、デビュー当時から読んでいる事もあるけど、ドキドキ感とか、 この作家が紡ぐ言葉が好きなんです。』 『紡ぐ言葉が好き・・・』 『言ってみれば・・・恋してる、みたいな』 『恋』 自分が書いたものもそう言われたい。 男は余計落ち込んでしまった。 ふわっと風が吹いて、青年の帽子が少し先に飛んでしまう。 『やべ!』 青年はベンチに本を置いて帽子を追いかける。 その後姿を、男が眺めていると、 青年がベンチに置いてった本が、ベンチの下にバサッと落ちてしまう。 男はその本を拾い上げふと中のタイトルを見ると、 『・・・!』 自分が書いた小説だった。 驚いた。 自分が書いているのはいわゆるBL小説で、読者の9割が女子である。 でもほんの一割の男性読者にこんな所で会うなんて。 それも、『恋してる』というたとえは、 男の心に響いた。 帽子を拾ってベンチに戻ると男はもういなかった。ーーーー 翌週月曜日。 「おはよ〜、令ちゃん」 と大学内を歩いていると、後ろから令に声かけたのは、 一人の大学生。令は振り返る。 「おはよう鳴海」 「もうっ、良って読んでよ♪」 と可愛く首を傾げる。 鳴海 良(よし)。高校からの令の友達で、令と同じく『皐』の小説の読者。 確かに見た目も女性に負けないくらい可愛いが、ちゃんと男である。 「ところで、今日も坂下教授の所に行くの?」 鳴海に問われ、 「今日は、すぐにバイトに行くから教授の所には行かないよ」 「そ、良かった」 と、嬉しそうに呟く鳴海。 令は呆れて、 「まだ諦めてないの・・・?教授のこと」 「当たり前でしょ!絶対振り向かせて見せるんだから」 と、いつものように坂下教授を落とす宣言をする。 令はため息をつく。 坂下教授は天然な部分があり、いつも鳴海のアプローチにも気がついていないようだ。 「坂下教授〜、こんにちは」 と、良は坂下教授の研究室に遊びに来た。 「いらっしゃい、鳴海くん」 いつものようにニッコリと笑顔で出迎える坂下教授と、 その隣には、皐先生がいた。 良は、皐先生をギッと一瞬睨み、 「皐先生も、ついでにこんにちは」 と、仮面のような笑顔を向ける。 アキラは良には本名は明かしていないので、皐と呼ばれている。 子供相手と半ばバカにするように、フッと笑い、 「子供は大人の時間に首を突っ込むな」 「変な言い方しないの」 「いてっ」 哲司はいつものようにのんびりしつつも、軽くアキラの頬をつねる。 ちぇっと呟き、アキラは哲司の研究室を後にする。 「ごめんね、イトコが生意気で。悪いやつではないんだけど」 と、改めて研究室内のソファに腰掛けた良に紅茶をだし、 「そういえばこないだ頼まれていた、論文の資料渡そうと・・・」 デスクから資料を出し、良に渡そうとする。 哲司は急に良に手を引っ張られ、ソファに倒される。 ソファに仰向けになっている哲司の上にまたがる良。 哲司はじっと彼を見つめる。 「いつになったら理解してくれるの?俺の気持ち」 赤くなりながら、大好きな教授を見下ろす。 こうして毎回教授の研究室に来ては、アプローチをしている。 哲司は冷静に彼を見上げる。 すぐにニコッと笑い、 「子供は興味ないっていってるでしょ?」 「10歳も違うから?」 「そう」 また振られた。 どんなに頑張っても、10歳の年の差は埋められない。 自分みたいな子供より、皐先生のような大人の子供が相手としてはふさわしいんだろう。 でも・・・ 良はゆっくり哲司に顔を、キスしそうなくらい口を近づける。 「本当はドキドキしているくせに」 と言って、何か言い返そうとした哲司の口にキスをする。 舌で口を強引に開けさせ、深くキスをしていく。 口の粘膜を舌がやらしく動かす音が、しばらく二人の耳を支配する。 全身が熱を帯びる。 良はそのまま哲司のシャツの上から、彼の乳首を触る。 哲司はその手をすぐに押さえて止める。 「それはだめ」 拒否され、良はソファから立ち上がる。 哲司に背中を向けて、 「すみません」 一言誤って、研究室を出た。 哲司はゆっくり身体を起こす。 照れた姿を見せないように、必死に我慢した。 いつものように、天然で何も気がつかない振りをするように。 彼は自分より10歳も若い、まだエロいことに興味のある年頃である。 肌もハリがあり、つやがある。 女子のように可愛い顔なのに、バリタチで。 本当は全てが好みなのだが。生徒に手は出せない。 なのに毎日アプローチされて、我慢するのが辛すぎる。 「ったく、可愛いんだから・・・」 哲司はキスされた唇をそっと、一人そっと撫でた。 その数日後。 ネットで広まったあるデマ記事のせいで、 小説家『皐』は炎上した。 「小説家『皐』が書いた新作は盗作である」 もちろんデマだが、噂というものは尾鰭がついて広まるもの。 嘘が重なり、どんどん『皐』の印象は悪くなっていった。 令はすぐにでもアキラに会いたかったが、 隣の部屋にはマスコミが駆けつけており、部屋には行けないでいた。 令は大学に来ていた。 学内の中庭のベンチで一人座っていた。 今起こっていることが現実味がなくて・・・ ふと、数ヶ月前に中庭で誰かと話したような気がする。 ある男と、『皐』の小説について話したような記憶があるが、 はっきり覚えていない・。 「令!」 遠くから呼ばれて、はっとする令。 気がつくと、こちらに向かって駆けてきたのは良だった。 「大丈夫?今『皐』先生、炎上してるけど・・・」 令の前まで来ると、肩で息をして大きく息を吐く。 自分より慌てている良を見て、 やけに冷静になる令。 「・・・令?」 「俺に出来ることは、無いから」 「そんな」 「炎上なんて、飽きれば落ち着くからさ」 と、笑う。 その笑顔は強張っていた。 平気な顔をしているが、平気な訳がない。 でも自分ではどうすることも出来ない。 マンションに帰ると令は、隣の住人として数人のマスコミに、 マイクを向けられた事もあるが、何も離すことなく自分の部屋に入ると マスコミはそれ以上令には近づかなかった。 隣の部屋にいても、電話も隣の部屋に聞こえるぐらい鳴りっぱなしで、 あまりにも鳴るために途中きっと電話線を抜いたんだろう。 パタっと音が鳴らなくなった。 そんな状態が3日ほど続き、 炎上は今時めずらしくない。 隣の部屋を訪れていたマスコミは3日で去っていった。 やっとマンションの周辺は静かになった。 その後にアキラの部屋を訪れたが、部屋からは出てこなかった。 もしかしたら、部屋を出てどこかで避難しているのかも知れない。 「会いたい・・・」 無意識に呟いていたことに、令は気がついた。 別に付き合っているわけじゃない。 アキラは自分のベッドの上で、蹲っていた。 炎上なんてよくある話だ。 でも、いざ自分がくらうと、恐ろしかった。 盗作なんてしていないが、 嘘は人によって簡単に作られて、広まっていく。 ただあの小説は、盗作なんかじゃない。 あの小説は、アキラが令へのラブレターだったから。 ヒットさせなくったってよかった。 ただ、気がついて欲しかった。 彼への、シグナルを。 自分を見つけてほしかった。 どこにいても。 今はもう、小説を書き続けていく意味はない。 炎上はデマだが、 令もきっと信じたかも知れない。 自分に呆れたかも知れない。 ただ、令の気持ちが欲しかった。 それだけだった。 アキラはらしくないが泣きそうになっていた。 そんな時、 『・・・ラさん』 隣の壁から、声が聞こえる。 令の部屋からの声。 壁越しだから本当に小さくしか聞こえないが、 令は泣いていた。 『アキラさんっ・・・!』 今、令の声で自分の名前を読んでいた。 『アキラ・・さんっ』 その声は、壁のすぐ近くで聞こえる。 こちらの壁に向かって話しているようだ。 アキラはすぐに部屋を出て、隣の部屋を訪ねた。 ドアの鍵は開いていた。 「令!」 隣の部屋に入ると、ベッドの上で令は一人泣いていた。 アキラの部屋の方の壁に寄りかかっていた。 それを見て、アキラの目から自然と涙が溢れていた。 アキラはそのまま、令のいるベッドに上がり令を抱きしめた。 「好きだ、令。ずっと・・・ずっと前から」 令を抱きながら、アキラは初めて自分の気持ちを口にした。 令が彼を見つめると、アキラは泣いていた。 そんな彼の頬を令はそっと撫でる。 「泣かないで」 好きなんだ。アキラさんの事。 アキラ自身が生み出す小説も、 ただ、令の作ったご飯を食べている所も、 ベッドで頭を撫でてくれる所も、 全部、好きだ。 だって、彼の作品自体に、ずっと恋してた。 そこではっと、思い出す。 いつぞや大学で出会った『彼』のことを。 自分はそのずっと前から、 恋してた。 思い出したよ、アキラさん。 あの時俺は自分からあなたに 告白してたんだね。 嬉しそうに笑う令に、 アキラは優しくキスをした。 その後、 炎上を起こしたネット民は『皐』の出版社が訴えたことで犯人は特定された。何とか示談にしたが、犯人の個人情報はネットに溢れ、ある意味罰を受けた。 「現代っぽい事件だったな。小説のネタになるな」 アキラの部屋で一緒に晩ごはんを食べながら呟く彼を、 令は半ば呆れて見つめた。 「それ職業病だね」 ふふっと笑う令。 そんな嬉しそうな彼を見つめアキラは静かにご飯を食べて、 片付けを終え、令は立ち上がる。 「じゃあ、帰るね」 と、あっさり自分の部屋に帰ろうとする令。 「おい」 と、令の腕を掴み、それを引き止める。 令はきょとんとして、 「何?」 なにって・・・ 一人で部屋でオナってたくせに、俺とシたくないのかよ? お互い好きで、隣に暮らしているのに、 もう随分ヤラシイ展開になっていない。 いつも夕食は一緒に食べているが、 寝るのはそれぞれの部屋。 「あー、えっとまだいいだろ。お茶でも飲んで行け」 一緒に居たいがなぜか控えめな態度に、 令はふっと笑い、 「下手な口説き文句だね。小説家のくせに」 「うるせ」 言って、アキラは令を自分の膝に座らせる。 満更でもない顔をする令に、まんぞくしてアキラは令の唇を奪う。 「んっ」 久しぶりにキスされて、令は気持ちよくなる。 令はアキラの首に手を回し、 彼の口の中に舌を入れ彼の舌と絡ませる。 気持ちよくて、背中がぞくぞくする。 「何でいつも何もしないで帰る?」 本気で疑問だったようで、真剣な目をするアキラ。 仮にも小説家の彼を独り占めして良いのかと思い、 中々イチャイチャしたいとは言えなかった。 「忙しいかなと思って・・・」 そういう令に、アキラは真面目な顔をして、 「お前より優先する事など無い」 「へ・・・」 ストレートな言葉に面食らい、赤くなる。 急に照れる令に、 「あまり可愛い反応をするな。抱くぞ」 そう言って令の首筋にキスをするアキラ。 「・・・いいよ」 「いいよって、お前・・・」 令の可愛さの悶絶するアキラ。 そのまま風呂場に連れて行く。 服を脱がして、 シャワーを浴びながら、 キスをして令の後ろを解してやる。 通常より柔らかい。 「昨日してたな」 「き、気が付かなくていいから!」 照れる令の半経ちのモノを弄る。 「んあっ」 アキラの勃ってるモノを彼の後ろに擦り付ける。 「早く挿れてぇ」 すぐさまベッドに移動する。 令の服を脱がしながら、首から胸ゆっくり全身キスしていく。 ズボンを脱がし始め令を見つめると、顔を赤くしてこちらを見つめていた。 「今さら照れるなよ」 いいながら、アキラも何故か照れが出る。 「だって・・・アキラさん、何しててもカッコいいから。そんな人にこんな事されるの恥ずかしくて・・・」 「・・・あまりかわいいこというな」 言ってアキラは令の硬くなったモノを口に咥えながら、彼の後ろに指を入れイイ所を探す。令は後ろに指を入れられビクッと身体をこわばらせる。 「力抜け」 「う・・ん、あっ」 令は気持ちよくて顔を上に向ける。 そのままベッドに寝かせられ、目の前には興奮して大きんモノを勃たせたものにゴムを付けている。この人はこれを自分に挿れる。 その大きくて硬いモノを令の奥まで挿入した。 「っああん」 一気に奥まで淹れられて、全身が痺れるようだ。 苦しいけど、気持ちいい。 そのままアキラはゆっくり腰を動かしていく。 ゆっくりすぎて、早く動くよりお互いの粘膜が擦り合う時間が長くて、令は自分の反応をじっと見つめながら抜き差しするアキラを見上げ、 「あ・・・んまり、見ないで・・・」 照れて顔を背ける令。ゆっくり抜き差しされる度に小さく喘ぐ令を見つめながら、アキラは彼にチュッとキスをして、 「無茶言うな。無理だろこんなの」 今まで見れなかった分、一秒も見逃さないようにアキラは令から目を離さない。 「俺が今までどれだけ我慢していたと思ってるんだ」 「え?ああっ」 「一瞬だって目を離さねえ」 「へ?んああっ」 朝まで抱き潰された。 翌朝、一人ベッドの上でパソコンのを開き、 メールチェックをするアキラ。 仕事柄起きると必ずメールをチェックするようにしている。 「う〜ん・・・」 アキラはふと隣で眠っている令を愛おしそうに見つめ。 彼の頭を撫でる。 毎日でもこうしてたい。 自分はきっと欲張りだと思う。 大学生の彼は、やりたいことがたくさんあるだろうし、 自分の生活のリズムもあるだろう。 アキラはあるメールを見て、 「おい、起きろ令」 隣で寝ている令の方を揺り動かす。 しかし、令はアキラの腰に抱きつきながらムニャムニャと再び眠りにつく。 ふっと笑い、アキラは令を起こすのをやめ、 再びメールを見返す。 BL小説家『皐』の新刊 《恋〜KOI〜》 100万部のベストセラー達成! そのメールを見て、 アキラはパソコンを閉じて、令を抱きしめ二度寝するのだった。 数ヶ月後、 「今じゃすっかりベストセラー小説家ですねぇ。『皐』先生は」 大学で文芸雑誌を見つつ呟く哲司。 「ちょっと」 良はくいっと哲司の顔を自分に向ける。 「今は俺に集中してくれませんかね?」 と、哲司の後ろに挿入したまま、抗議する。 そのまま腰を動かす。 「あっ、あっん」 哲司はイイ所を突かれて、喘ぎ声を出す。 ソファの上で後ろから挿れられながら器用に雑誌を読んでいたのだ。 「ほんっと、あっ、君は・・・かわいいねっ」 腰を打ち付けられながら、一応良を褒める哲司。 はだけたシャツから見える哲司の乳首をコリコリと舌でいじり、 「余裕ないくらい動きますよ」 と、ぐっと奥まで挿れて激しく抜き差しされ、 さすがに雑誌を読む余裕がなくなる。 「ああん、まっ待って・・・」 待ってといいつつ、本当は気持ちよくてずっと挿れていて欲しい。 本当は哲司にとって良がドタイプで好きだったが、 年下ということもあり哲司は年上として大人ぶっていた。 一度身体を許してから、 良が格好良く見えて仕方がない。 行為が終わって後始末をしてから、 いつも良はこう言う。 『家にはいつ入れてくれるんですか?』 その質問にはいつも哲司はこう答えている。 『そのうちね』 でも、今日は違った。 「坂下教授」 「ん?」 哲司は軽いノリで答えるが、良は彼の顔をまっすぐ見つめ、 彼の手を取り、その手にそっとキスする。 「もっとちゃんと愛させて」 真剣にそう口説かれ、哲司は少しだけ照れて、 「週末ならいいよ」 「ほんと?」 「うん」 「嬉しい」 子供のように嬉しそうに笑う良の顔を見て、 愛おしさが溢れる哲司。 (まあ、いいか・・・) 哲司は幸せそうなイトコたちを思い出し、 自分も素直になってもいいんだと思った。 ーーーエピローグ 『皐』先生インタビュー 編集者:皐先生今回は、取材をご協力ありがとうございます。新作小説100万部ベストセラーおめでとうございます。 皐先生:ありがとうございます。 編集者:今回の新作読ませていただきました。私は元々先生の小説のファンなのですが、新作は切ない控えめな恋心と、強引な行動とのギャップがたまらなかったですね。 皐先生:作者の意図を汲み取っていただいてありがとうございます。 編集者:切なさと、強引さはBLの萌ポイントですよね。読んでて行為に及ぶ情景が想像するだけもうたまらなかったです。 皐先生:それは良かった。 編集者:時々モデルがいる小説もありますが、今回の小説にはモデルはいるんですか? 皐先生:そうですね。今回のエピソードに関してはノーコメントで。 編集者:おや?意外ですね。 皐先生:炎上もありましたし。盗作は嘘ですけど(笑) 編集者:本当にあれは許せませんでしたよね。私も一人のファンとして怒りで我を忘れそうになりました。 皐先生:ありがとうございます。でも僕のファンの皆さんは、僕を信じてくれましたし大抵炎上させる人間は僕を知らない人が多かったので。そんなものなんでしょうね。 編集者:大人ですね。 皐先生:そんなことないですよ。炎上した当初は怒りが沸き上がりましたし。今でも犯人の行為は許したわけではありません。でも炎上騒動のお陰で僕の作品に興味を持ちだして、読み始めた方も多かったようですし。ある意味ありがたかったというか。 編集者:ところで今回の小説にモデルはいるんですか?先生の小説は作品によって知り合いのエピソードとか、自分の思い出からとかありますよね? しかもタイトルが《恋〜KOI〜》ですけど、自分の恋の経験から取ったとか? 皐先生:うーん、そうですね。今回はノーコメントで。 編集者:ほう、意外ですね。 皐先生:この作品は僕にとっても思い入れのある作品であるので、ノーコメントの方が皆さんの想像を掻き立てられますし。 編集者:確かにそうですね。皐先生最後にファンのメッセージをお願い致します。 皐先生:今回のベストセラーは、一重にファンの皆さんのおかげです。いつも応援ありがとうございます。これからも皆さんの想像力を掻き立てられるような作品を送り出せるようにがんばります。ありがとうごました。 編集者:今回はありがとうございました。 終。

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