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城壁の皇帝4
つまり赤の他人が気の毒な少年を引き取ったというところか。男は質問を変えた。
「それでお前さんは何故カジノなどへ行ったんだ。その爺さんは家にいるのか?」
少年はまたしてもブンブンと首を横に振る。
「じいちゃんの帰りが遅いから……お仕事場まで見に行ったんだ。僕、お腹空いて……その……」
今にも泣き出さん勢いで瞳を歪める。
「分かった。そう怯えんでもいい。俺はお前に対して怒ってもいねえし、さっきのヤツらのように追い掛けたりせんから安心しろ。それで、爺さんの仕事場は何処だ。名は何という」
落ち着かせんと頭を撫で、子供の目線になるように屈んでやる。するとようやく安心したのか、上がっていた息も治り、次第に会話が成り立つようになっていった。
「じいちゃんは……黄 。カジノでディーラーっていうお仕事をしてます」
「黄 ――とな」
男はわずか驚いたようにして瞳を見開いた。カジノのディーラーで黄 といえば聞き覚えがある――というよりも、相当に腕が良いと評判の男だったからだ。
周焔 、元はこの香港を治める一大マフィアのファミリーである。実の父親はその頂点にいる組織の頭領 ・周隼 だ。
焔 は周隼 の次男坊であったが、母親が妾の為に組織の中では微妙な立場であることは否めない。彼には兄がいて、周風 という。本妻の息子だ。
父も兄も、そして継母も焔を本物の家族として大切に扱ってくれているが、組織の中には妾の子である焔を疎ましく思う連中が少なからずいるのも事実である。それ故、父の隼 が下した決断は、焔 にこの地区を治めさせることで配下の者たちの溜飲を下げると共に、焔 自身の実力を皆に認めさせようということであった。
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