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城壁の皇帝5

 九龍地区にあるその城壁内へは、一歩足を踏み入れれば二度と外へは出られないとされている。いわば悪の巣窟などと噂されてはいるが、それは世間の想像であって、実のところは噂で聞く世界とはまるで別物といえた。  九龍城と呼ばれるその街の中には酒場や高級飯店、カジノに遊郭などの遊興施設が混在していて、いわゆる夜の歓楽街であった。  そこへ来る客人らは政府高官から富豪商人、財閥、加えて他国からの要人なども出入りしており、華やかな交流の場所として賑わっていたのだ。  外からの眺めは廃墟も同然のスラム街だが、一歩中に入れば豪華な設えのバーやレストランなどの店々が立ち並び、中でも高級カジノは外の世界に引けを取らないどころか、世界中のどのカジノよりも秀でたディーラーが最高のひと時を約束してくれると評判にもなっている。それと同時に、遊郭と呼ばれる色を売る施設の方も絶品で、それこそ質の高い遊女が数多く存在し、男色専用の店までが軒を連ねていた。よって、世界中の富豪や要人たちが秘密裏にこぞってここを訪れるという、外観と中身が真逆の世界であった。  そんな街でも犯罪というものは無くならない。というよりも、そんな街だからこそ金に目を眩ませた悪人どもがはびこるのもまた常である。香港を治める周ファミリーが統治しなければ、途端に本物のスラムと化してしまうであろう。

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