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愛しき者の失踪9

 この男は自分の両親の名前も知っている。しかも中国名だ。亡くなった原因も、住んでいた家を追い出されたことも鮮明に話してよこす。  変な話だが、もしかしたらこの紫月に瓜二つの男は記憶喪失にでも陥っているのではないか――互いに口にこそ出さなかったが、遼二も(イェン)もそんな思いが過っていたのは確かだ。ところが今の話を聞く限りでは、どうもそうではないらしい。これほどはっきりと自分の素性を覚えているということは、本当にたまたま瓜二つの別人なのだろうかと思わされる。  だが、遼二にとってはここですぐに諦める気には到底なれなかった。 「ルナといったな。俺は遼二だ。鐘崎遼二という。実はな、このたびお前さんの教育係として就任することになったんだ」  咄嗟に遼二がそんなことを口走った。 「教育係――?」  ルナと名乗った彼は怪訝そうに首を傾げている。 「そうだ。お前さん、ゆくゆくはこの遊郭で男娼になるんだろうが? その為の教育係が俺だ」  だから顔合わせに来たのだと説明する。 「は――! なーんだ、そういうことね」  合点がいったのか、彼はクスッと冷笑をもらしてみせた。 「頭取がさ、今の下働きに慣れたら俺には本格的に客を取ってもらうことになるからって言ってた。ここの兄様たちの話じゃ、一丁前の男娼になるには教育期間ってのがあるんだってことも聞かされてたからさ」  兄様たちというのは既に客を取って働いている先輩男娼のことらしい。  ってことは、いよいよ俺も客を取る日が近いってわけ? ――と言って、また薄く笑う。

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