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ルナと紫月5

「なあ、先生。俺、今日からここに住むんだべ? アンタも一緒の部屋ってわけ?」  服を脱ぎながらルナが訊く。 「先生――だ? 俺のことか?」 「だってアンタ、俺ン教育係なんしょ?」  だから『先生』というわけか。 「そんな呼び方をせんでもいい。そうだな――遼二、もしくは遼でいい」  失踪する前も紫月はそう呼んでいた。このルナという男が紫月であった場合、同じ呼び方をさせればふとした瞬間に何か思い出すことがあるかも知れないと思ってのことだった。 「遼? 先生を呼び捨てにしていいってわけ? 兄様たちの話じゃ、教育係の先生には超丁寧にしないといけねえって聞いてたけどな」  どうやら遊郭街の教育係はかなり厳しい存在だと教えられているようだ。 「ここは皇帝の邸がある特別区だからな。遊郭街とはまた礼儀が異なるんだ。俺のことは遼でいい」 「ふぅん、じゃ遼――ね」 「ああ、それでいい」  脱いだ服を受け取り、逸る気持ちで左腕の傷痕を確かめる。  ――――!  すると思った通りか、見覚えのある刀傷が視界に飛び込んできて、遼二は心拍数を速くした。

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