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動き出した歯車6

「親父――頭を上げてくれ! そんなふうにされちゃ……俺はそれこそ合わせる顔がねえ」  遼二にしてみれば、紫月――いや、ルナの記憶が戻るまではこの香港を離れられないと思っていた矢先だ。いうなれば遼二の方から組には戻らず、しばらくこの香港に残らせて欲しいと頼まねばならなかったところ、偶然とはいえこれでは棚から牡丹餅も同然の成り行きだからだ。 「すまない、親父――。実は俺の方から……」  そう言い掛けた遼二の肩を掴んでゆるやかに首を振ったのは焔だった。 「運命だ、カネ。経緯はどうあれお前がこの地でルナ――一之宮――と親父さんたち、それから俺たちと共に生きていけと、これも天からのお達しと思って力を合わせていこうじゃねえか」  共に精一杯生きていこうじゃねえか――!  友の力強い言葉に目頭が熱くなる。 「周焔……ああ、そうだな。お前らと共に――」  これから先もずっと――!  そっとルナの肩を抱き寄せた遼二の瞳は滲み出した雫がキラリと光り、口元には穏やかな笑みが浮かべられる。この先も決して平穏な日々ではなかろうが、それでも愛する者、信じ合える仲間たちと一緒ならば、きっと乗り越えていけることだろう。誰もが同じ思いで互いを見つめて微笑み合う。  闇といわれた城壁の中に、またひとつ新たな光が灯ろうとしていた。 ◇    ◇    ◇

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