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皇帝の縁談2

「困ったとばかりも言ってはおられぬ。何とかせんと――」 「そういえば皇帝はご自分のお邸に見ず知らずの子供を住まわせているとか。いったいどういったご関係の子供なのでしょうな?」 「ああ、あの子供か。確かカジノディーラーの(ウォン)の子だとかいう噂ですな」 「黄か――。あの爺さん、腕は大層いいと評判の男だが、確か彼は独身だったはずだがな」 「何でも隣家に住んでいた子供を引き取ったとかで、親代わりのようですぞ」 「ふむ、親代わりとな……。それが何で皇帝の邸に居候なぞしておるのだ。何か特別なご関係があるのだろうか」  お偉方の噂に上っているのは冰のことである。 「今は高校生のようだが、学園への送り迎えに皇帝のご側近がわざわざ付いて行きなさるとか……。よほど大事にしているということですな。誰かその子供を見たことのある者はおられんのか。縁談を勧めるにしてもそんな子供が一緒に暮らしていたのではお輿入れする方でもお気になさるだろうに」 「噂では大層な美少年のようですぞ。まさかとは思うが、皇帝周焔(ジォウ イェン)は男色――などということはなかろうな」 「男色――? まさか……皇帝に限ってそんな……」 「分からんぞ。数年前から皇帝邸の裏に用心棒の事務所が建っただろうが。この街の治安の為に組織されたと聞いておるが、そこの若頭とかいう男が男色だそうでな。遊郭街で男娼になるはずだった男を気に入って、自分の伽の相手として引き抜いたとの噂もある」 「その話ならわしも知っておりますぞ! なんでも日本からやって来た鐘崎組とかいう極道だそうだな。若頭というのは皇帝のご親友だとか」 「なんと! 破廉恥な! まさか皇帝もその親友に感化なされて同性にご興味を持たれたなどというまいな?」  一気に場が静まり返り、誰ともなしに互いの顔を見合わせる。 「冗談ではありませんぞ! それでは我々の計画が台無しだ!」 「そうですよ! せっかく(シィン)殿のご令嬢との縁組をと思って計画をあたためてきた我々の思惑はどうなってしまうのです!」  (シィン)殿というのは彼らの仲間内の企業家で、年頃の娘がいる男のことだ。この城壁内に通っているわけではないが、香港屈指の企業家でもあり、表の世界では名だたる家柄だ。そんな(シィン)家に裏のナンバーワンである周一族との縁ができればますますもって怖いものなし、(シィン)家の当主もこの縁談には乗り気のようだ。  しかも娘はなかなかの美人であることから、彼女が相手ならば皇帝も文句はあるまいと思い、皆で相談して縁談を決めたわけだった。  事が上手く運んで(シィン)の娘が皇帝の妻になれば、縁談を取り持った彼らとてこの街の中で実権を握れることになる。(シィン)家は皇帝の家族親戚となり、その(シィン)がお偉方たちにも相応の立場を用意するという計画である。 「これは……そうおちおちしてもおられませんぞ! 皇帝がヘタな気を起こされる前に、一緒に住んでいるというその子供を引き離しませんと」 「おお、その通りだ。仮に皇帝が男色でなくとも、そんなガキをお側に置いていたんじゃ、いつ間違いが起こらないとも限りませんぞ。親友の若頭とやらに触発されてご自身も男を伽の相手にしようなどと思われたら取り返しがつかん! 何としてでもその子供を追い出し、(シィン)殿の娘御と引き合わせねばなりますまい」 「おっしゃる通りです! 皇帝だって欣殿のご令嬢を一目見れば絶対にお気に入られるはず! 悠長にしている暇はありませんぞ!」  とにかく皇帝の興味をご令嬢に向かせることができさえすれば、きっと気も変わられる――皆は急ぎ皇帝の元から居候の子供を引き離す策を巡らせるのだった。

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