59 / 74

皇帝の縁談3

 お偉方たちがそんな企てに団結していた頃――。  周焔(ジォウ イェン)の皇帝邸では当の冰が少々元気のない日々を過ごしていた。 「どした? 冰君、このトコ何だか元気なさそうに見えっけども。どっか具合でも悪いんだったら今日は勉強すんのやめにして横になった方がいいかも」  冰は高校になった今でも学校から帰るとすぐにルナに勉強を見てもらう習慣が続いている。学園から帰るとすぐに、二人でお茶をしながら宿題方々ノートを広げているのだ。  (イェン)はこの街の行政や治安などの為、昼間は出掛けていることも多い。今日も然りだった。また、遼二も彼の父親や組の若い衆らと例の闇組織について調査に出ており、冰は夕飯までの間ルナと真田ら家令の者たちと共に過ごすのが日課となっていた。  いつもは明るく朗らかな冰がここのところ何だか酷く落ち込んでいるようで、ルナとしても気に掛かっていたのだ。 「あの……ルナお兄さん」 「ん? どした? やっぱ体調が優れねえんか?」  ルナはそっと彼の顔を覗き込むようにして穏やかに耳を傾けた。 「いえ、体調は……悪くないんです。ただ……白龍(バイロン)のお兄さんのことでちょっと……」 「皇帝様の?」 「……はい。あの、白龍(バイロン)のお兄さん……結婚するかも知れないんですよね?」  ルナもまた、(イェン)にこの街のお偉方たちから縁談を勧められていることを聞いていた。 「ああ、そのことか。けど遼の話じゃ皇帝様はその縁談を断ったって聞いてるけど」 「……! 断ったんですか? 白龍(バイロン)のお兄さんが?」 「うん! まだ当分結婚するつもりはないって言ってたそうだぜ。もしかして冰君、そのことで悩んでるんか?」 「ええ、まあ……。もしも白龍(バイロン)のお兄さんが結婚して……お嫁さんがいらしたら、僕はお邪魔になってしまうんじゃないかって思って……。じいちゃんと一緒に元のアパートに戻った方がいいのかなって」  うつむき加減で声音も弱々しく、今にも泣き出しそうな表情で言う。ルナは驚いてしまった。 「まさか! 冰君が邪魔になるなんて、そんなことあるわきゃねえって! 俺とか遼とか、傍から見てても皇帝様が冰君のことすっげ大事に思ってるのが分かるしさ」 「……はい、僕もそう思います。お兄さんは初めて会った時からすごくやさしくしてくれるし、俺やじいちゃんのこと家族同然に思ってくれてるって……聞いてますから。でも、だからこそお兄さんの邪魔になっちゃいけないって思うんです。僕たちは本当の兄弟でもないし、ここに住むことになったのだって僕がまだ子供だったからで……お兄さんは気遣ってくれたんだと思います。でももう高校生ですし……お嫁さんだって僕やじいちゃんがいたら、窮屈な思いをされるんじゃないかって……思って」  クスンと小さく鼻をすすりながら、ずっとうつむいたままだ。ルナもまた、そんな彼の姿に心が痛む思いがするのだった。

ともだちにシェアしよう!