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※番外編 皇帝の憂鬱2
ちょうど週末で調査の仕事も休みである。これ幸いと遼二は紫月にも事情を打ち明けると、出掛ける支度を済ませては、わざと焔の目につくようにこれから外出する素振りを見せつけた。
「カネ――。一之宮も……。何だ、どっか出掛けるのか?」
案の定、興味を示した焔が逸った顔つきで近寄って来る。遼二はすっとぼけたふりのまま、大袈裟と思われるほどの相槌を返してみせた。
「おう、焔! 実はな、これからちょいとドライブがてら小旅行にでも行って来ようと思ってな。このところ仕事で出突っ張りだったし、たまの休暇だ。今は急ぐ調査もないものでな」
「――ふむ、小旅行とな。で、何処まで行くつもりなのだ。遠いのか?」
「いや、近場だが白泥あたりで一泊してこようと思ってる。あそこの夕陽は絶景で有名だからな。一度紫月に見せてやりてえと思ってるんだ」
白泥と聞いて焔は焦燥感あらわに身を乗り出してよこした。
「……一泊すると言ったな……? 白泥でだと?」
「そうだ。宿は既に取っている。本当は親父たちも誘ったんだが生憎都合が付かねえらしくてな。部屋がひとつ余っちまったがまあ仕方ねえ。当日のキャンセルもきかんし――」
そこまで言い掛けて、更にわざとらしくこう付け加えた。
「そうだ、焔! おめえ一緒にどうだ? おめえが行ってくれりゃ部屋も無駄にならなくて済む。何なら冰も連れて一緒に行かねえか?」
すると紫月も後押しするように大はしゃぎで話に乗っかって援護する。
「そりゃいいな! 冰君と小旅行なんて最高じゃね! なあ焔、行くべ行くべ!」
「……ふむ、そういうことなら……うむ。せっかくの部屋を無駄にするのも忍びねえ」
視線を泳がせながらも焔はすっかりその気のようだ。遼二と紫月は密かにニヤっと微笑み合ったのだった。
◇ ◇ ◇
「なーんだ、冰君は学園行事のキャンプだったんかぁ。せっかく一緒にと思ったのに残念だな」
行きの車中で紫月がわざとらしくも肩を落としてみせていた。今日は遼二が運転して焔は助手席、紫月は後部座席。親友同士水入らずの旅だ。
「ふむ――まあ仕方ねえ。だが偶然と言っちゃナンだが、冰たちのキャンプ地も白泥なのだ」
焔が所在なさげにモゾつきながらもそんな言い訳をしてよこす。紫月はそれこそ大袈裟な調子で喜んでみせた。
「マジかよ! んじゃ向こうで会えるかもな!」
「ああ……まあ……な。学生たちの邪魔になっちゃいかんが、遠目から様子を窺うくらいなら……ふむ、まあいいだろう……」
何だかんだと言いながら、焔はすっかりその気だ。現地に着けば一も二もなく様子窺いに出ることだろう。
「いいじゃね? 俺らも学生気分に戻って雰囲気楽しめそうだ。なあ遼?」
「そうだな。冰がどんなふうに学園生活を送っているのかこっそり窺うのも悪くねえ。言うなれば非公式の授業参観といったところだ」
遼二も紫月も乗り気の様子に、焔は嬉しそうだ。視線を泳がせながら、『確かにこういった機会も貴重だ』などと言っては照れ隠しの為かわざと平静を装いつつも、さほど興味の無さそうに飛んでいく景色を眺めている。遼二と紫月はミラー越しにウィンクを飛ばし合ってはやれやれと笑うのだった。
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