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※番外編 皇帝の憂鬱3

 白泥に着いてチェックインを済ませると、三人は早速学園がキャンプを張っているというロッジに向かった。こんもりとした林の中、ちょうど学生たちがスケッチブックを広げて絵を描いているところだったようだ。 「今は美術の課外授業か? 冰君は……あ! いたいた! あそこの切り株に座ってるのそうじゃね?」 「ふむ……相変わらず真面目に頑張っているようだな」  焔は双眼鏡を取り出して冰に釘付けだ。 「焔、おめえ……それって双眼鏡? 家から持ってきたのか?」  さすがに驚いてか紫月が呆気にとられたようにして目を丸くしている。 「ん? あ、ああ……。さ、真田が用意してくれたのだ。白泥の夕陽は絶景だから……その、一之宮に見せてやってくれとな」  嘘か本当かといったところだが、ここは素直に感激してやるべきだろう。 「へえ! さっすが真田さん! んじゃ、しっかり拝んで来なきゃな!」  紫月が乗ってくれたことに安心したのか、焔はしきじきと冰観察に精を出すのだった。 ◇    ◇    ◇  夕刻になりひとまずは名だたる絶景を堪能した三人は、冰たちのいるキャンプ場に戻って、またも遠目からのウォッチングタイムと相成った。冰はキャンプファイヤーの責任者に抜擢されたということなので、彼の司会進行ぶりやらレクリエーションの旗振り役となって活躍している様子を微笑ましく眺めた。  まあここまではいい。問題は夜だ。  イベント行事も済み、そろそろ就寝時刻となって学生たちがそれぞれのロッジへ帰って行く中、目下の関心事は冰と顧問教師が二人だけで泊まるというこの事実だ。  三人はすっかり探偵気分で、身を潜めつつこっそりと冰らのロッジへと近付いていった。  部屋の灯りはまだ点いていて、木製の窓も開け放たれている。その窓枠の真下に陣取れば、運良くか話し声までもが鮮明に聞き取れる絶好のシチュエーションに胸を高鳴らせる。  当初は焔に付き合ってやるかといった感覚でいた遼二と紫月も、すっかり興味津々で息を殺しては耳を澄ます。何だか覗き見をしているようでドキドキするわけだ。  教師がキャンプファイヤーでの冰の活躍ぶりを褒めたり、明日の予定などを話していたが、その内に少々気になる話題に突入して、三人はますます窓枠の下で耳を澄ましてしまうこととなった。  案外生真面目な調子で話題を振ったのは冰の方だった。 「先生、あの……ヘンなこと聞いてもいいですか?」  そう言う声音はどこか畏まっていて、何か重要なことを相談したい様子が窺えた。遼二も紫月も興味をそそられたのだが、焔に至ってはもう窓枠から身を乗り出して中を覗く勢いだ。 「おい、焔! もちっと屈め! 気付かれちまうだろうが……!」  遼二が服の裾を引っ張って焔を屈ませる。 「あ、ああ……すまん。つい――な?」 「気をつけろバカ! バレたらやべえことンなるって」 「すまんすまん――」  三人で身を寄せ合ってコソコソ――まるで悪ガキ時代に逆戻りの勢いだ。  部屋の中の冰たちは気付く様子もなく、何とも真剣な口調で会話が始まったのに、またしても耳がダンボ状態――。その内容もまた驚くべきものだった。 「あの……先生はその……好きな人っていますか?」  意外なその質問に、三人は思わず顔を見合わせてしまった。

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