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※番外編 皇帝の憂鬱5
(あーあ、こりゃどうしようもねえわ……。世話が焼けて仕方ねえ)
紫月はお手上げだと肩をすくめては、クイと焔の顔前で指さした。
「――あ?」
「お・ま・え!」
「……は?」
「ンだからぁ、冰君の想い人はお前だっつってんだ!」
「へ――?」
「焔、おめえ案外鈍感なぁ? 冰君の好きな人がおめえ以外にいるわきゃねえべ」
え――!? えええええ――!
思わず大声を出し掛けた焔の口を咄嗟に塞ぎながら遼二が溜め息をついた。
「でっけえ声出したらバレるっつってんだろ……! ちったぁ自重しろ、自重ー!」
「あ、ああ……すまん……」
慌てる三人をよそに、部屋の中からは教師の穏やかな声が聞こえてきて、再び耳を澄ました。
「いいじゃないか。冰君がその人のことを好きだと思うなら――相手が男性だろうが年上だろうが、立場が偉かろうがその想いは大事にするべきだよ。ただね、そのお相手が結婚していらっしゃるなら話は別さ。いかに純粋な想いでも不倫は――誰かに悲しい思いをさせてしまうこともある。僕はそう思うよ」
「先生……」
「お相手の方、既婚者かい?」
ブンブンと勢いよく首を横に振ったのが雰囲気で分かった。
「そう、独身かい」
「……はい。その人にお嫁さんは……いません」
「そうか。だったら悩むことはない。好きになったのが男性だろうと女性だろうと、年が離れていようが立場が偉かろうが、誰かを好きになることは尊いことだよ。無理に諦めることはない。今の想いを大事にしながら、冰君がそのお相手に打ち明けたいという気持ちになるまでゆっくりあたためてもいいと僕は思うよ」
「そう……ですか? こんな僕、子供なのに……迷惑じゃないでしょうか」
「冰君がそんなふうにお相手を思いやれる気持ちを持っていることが先生はとてもいいことだと思うよ」
「本当に……?」
「ああ。だから悩み過ぎることはない。悪いことをしているとか、自分はおかしんじゃないかなどと思う必要もない。それでもどうしていいか分からなくて自分一人で抱えきれないなら僕はいつでも相談相手になるさ」
「……先生、ありがとうございます。なんだか……話を聞いていただけただけで大分すっきりしました。クラスの友達はだいたい同級生の女の子とかと付き合っていたりして……皆んなでワイワイ楽しくやってる。そういうのが当たり前なのかなって思って。なのに僕はずっと年上の男の人を好きになって……誰にも相談できなかったから。お兄さんには言えなくてもいい、側にいられるだけで今は充分幸せです、僕」
「うん、そうか。また何か悩みが出てきた時は遠慮せずに言っておくれ。一人で悩んで苦しむことはないからな?」
「ありがとうございます、先生!」
「さあ、それじゃそろそろ休みなさい。僕は明日の課外授業のことで準備があるからね。隣のロッジに集まって先生方と会議に出掛けるが、冰君は先にお風呂に入って休んでいいからね」
「はい。ありがとうございます!」
教師は窓を閉めて出掛ける支度に取り掛かったようだった。
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