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第7話 欲求不満な二人(1)
「坂上、ナイッショ!」
チームメイトからパスを受け、智也がレイアップを決めるとそんな声が聞こえた。
現在は体育の授業で、バスケットボールの試合をしている最中。これでも、もともとはバスケットボール部員だ。ハーフコートゲームといえど、楽しいと熱くなってしまうもので、智也はすっかり汗ばんでいた。
「あっつ……」
顔の汗をシャツで拭いつつディフェンスに戻る。
ふと視線を感じて見やれば、陽翔とパッと目があった。が、すぐに逸らされてしまう。
いつもなら微笑んでくれるのに――すぐにボールが動いてそれどころではなくなったけれど、なんだか気になって授業後に声をかけてみることにした。
「おいコラ、なんで目ェ逸らすんだよ」
「いや、なんでそっちはガンつけてんの」
陽翔は眉根を寄せて、こちらを見ようともしない。
機嫌が悪いのかとも思ったが、その日に限らず、陽翔はどこか余所余所しかった。
一緒に放課後を過ごしたとしても、家に誘えばやんわりと断られる始末。
もちろん喧嘩などした覚えはない。避けられるような理由が思い当たらず、智也は困惑したのだった。
◇
「くっそ、陽翔のヤツ! ムカつく!」
ベッドの上でぬいぐるみ――以前、陽翔にゲームセンターで取ってもらったものだ――を抱きしめながら転げ回る。
つい最近まであんなにベタベタしていたというのに、急に素っ気ない態度を取るとは、いったいどういった了見だ。本人に訊いても、曖昧な笑みを浮かべるだけで何も答えてくれず、ますます智也を苛立たせていた。
「なんだよ、バカハル……」
いつからこんな態度を取られていたのだろう。思えば、最後に肌を重ねたのだって二週間以上前のはずだ。しかも、挿入まで至らなかった覚えがある。
まさか、これが倦怠期というものだろうか――。
(なんて、あいつに限ってそれはねーか)
フッと鼻で笑う。今までの言動を鑑みれば、疑いの余地などない。ただ、「もしかしたら」という可能性を否定できなくて、一抹の不安がよぎる。
「いやいや、ありえねーって……」
言いながらも胸の奥底にわだかまりを感じ、智也は暗い表情を浮かべた。
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