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第7話 欲求不満な二人(2)★

    ◇  さて、鬱屈とした気分が何だというのか。  智也はいつまでもウジウジ考えているような性格はしていない。次第に腹立たしさが抑えきれなくなってきて――簡潔に言おう、ついにキレた。 「ま、待ってよ智也! どこまで行くの!?」  とある放課後。陽翔を連れてズンズンと廊下を突き進む智也の姿があった。  辿り着いた先は特別教室棟の男子トイレ。突き当たりにある個室に陽翔を押し込むと、逃げられぬよう後ろ手で鍵をかけ、その胸倉に掴みかかる。 「いい加減にしろよ、テメェ」 「いや、カツアゲ現場みたいになってるから!」  確かに、まるでカツアゲでもしているかのような図になっているのだが、今はそんなことはどうでもいい。 「なんで最近、俺のこと避けるんだよ」 「それは――その、ごめん……」  智也が問い詰めるように睨みつけると、陽翔は顔を伏せてそんなことを言ってきた。智也のなかで再びままならぬ感情が膨らんでいく。 「俺のこと、もう飽きたのかよ……っ」  チッと舌打ちをし、智也は吐き捨てるように告げた。  対する陽翔は、弾かれたように顔を上げてきょとんとする。 「え? なに言ってんの?」 「は?」  今度は智也の方が呆気にとられてしまった。あれだけ露骨に避けておきながら、この男は何を言っているのだろう。 「いや、ハル……それはこっちのセリフなんだけど。付き合い自体は前とさほど変わんねーし、マンネリっつーか――まさかとは思うけど、そういう」 「なわけないでしょ! 智也ってばそんなこと考えてたの!?」 「っ……じゃあ、なんで避けてんだよ」  智也は低く呟いて胸倉から手を離す。  陽翔はしばらく気まずそうにしていたものの、やがて観念した様子で口を開いた。 「ムラムラ……しちゃうから」 「『ムラムラ』って――はああっ?」  あまりにも予想外すぎる返答に、思わず大きな声を出してしまう。すると陽翔はさらに声を落とし、ぼそっと続けた。 「この前エッチしたとき、『当分禁止』って怒ったでしょ? 俺もあれから反省して、初心にかえって智也のこと大事にしようって」 「待てよっ、誰がそんなこと――」  と、言いかけて思い出した。 「ああ、うん……言ったな」  あれは前々回のセックスだったか。「今日はもう無理!」などと訴えても許してくれなかった陽翔に、智也は本気で怒ったことがあった。なんせ行為中は気持ちよすぎて死ぬかと思ったし、翌日はベッドの住人になる羽目になったのだ。  だからつい、というわけなのだが、まさかここまで尾を引くとは――どっちもどっち、と言えばそれまでの話で、どうやら変なところですれ違っていたようである。 「不安にさせちゃってごめん。避けられたら嫌に決まってるのに、智也のこと蔑ろにしちゃったよね」 「いや、俺も悪かったよ。あのときは確かにああ言っちまったけど……でも俺、ハルに抱かれるのが嫌なわけじゃねーから」  謝罪の言葉を交わしつつ、智也は少し恥ずかしくなって頬を掻く。  その一方、陽翔はホッとしたような笑みを浮かべ、こちらへと身を寄せてきた。 「よかった」  久方ぶりに感じる体温と匂い。それだけで体が反応してしまいそうになる。  陽翔に抱かれるようになってからは、あまり自慰をしたいと思わなくなっていたし、欲求不満もいいところなのだ。 「つーか、今はむしろセックスしてーかも……」  智也は悩んだ末に正直な思いを吐露した。陽翔の肩口に頭を預けながら、やんわりと体をまさぐっていく。

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