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第8話 もう守られてばかりじゃない(1)

「結城くんのこと、ずっと前から見てましたっ。私と付き合ってください!」  ある日の昼休み。校舎裏に呼び出された陽翔は、いつものように女子から告白を受けていた。  告白してきたのは隣のクラスの生徒で、何度か廊下ですれ違ったことがあるから顔くらいは知っている。肩までの艶やかな黒髪にぱっちりとした瞳。背が高くスタイルもいい彼女は、陽翔から見ても魅力的に思えた。  しかし、答えなんて当初から決まっている。 「付き合ってる人がいるから、ごめんね」  以前は何の理由もなく断っていたけれど、今は違う。きっぱりと告げれば、相手は予想どおりといった様子で苦笑を浮かべた。 「あーやっぱり。……ねえ、あの噂って本当なの?」 「え?」  何のことか訊き返そうと思ったそのとき、校舎内からざわめきが聞こえてきた。  ちょうど陽翔たちのクラスがあるあたりだ。喧嘩だろうか、智也の怒声が混ざっている気がして胸騒ぎがする。 「ごめんっ、俺もう行くね!」  相手の声が追いかけてきたが、構わずに陽翔は駆けだした。  廊下までやって来れば、やはり智也の声がして不安が増していく。一体どうしたのかと、急いで教室の中に飛び込んだ。 「智也っ!」  教室内はただならぬ雰囲気だった。  真っ先に目に入ったのは、クラスメイトの男子に掴みかかっている智也の姿だ。殴られでもしたのか、右頬が赤くなっている。  周囲の生徒が遠巻きに見ているなか、陽翔はすぐに駆け寄って肩を掴んだ。  ハッと智也がこちらを見上げてくる。ところが、すぐに手を払われてしまう。 「保健室で冷やすもん貰ってくる」  それだけ言い残して、足早に教室を出て行こうとする。  陽翔は目を細め、智也を殴ったであろう男子生徒を睨んだ。相手は掴みかかられていたものの無傷のようで、どうにも智也は一方的に殴られたらしい。  智也が誰かと揉め事を起こすのは、なにも珍しいことではない。幼い頃からずっとそうだった。しかし、怪我をするような事態はここしばらくなかったことだし、喧嘩なんてやめたのだとばかり思っていた。  きっと何かあったに違いない。とはいえ、今はそれを気にしている場合ではなかった。 「待ってよ、智也!」  廊下に出た陽翔は、智也を追いかけて隣に並ぶ。 「ねえ、俺も一緒に行くよ」 「は? ガキじゃあるまいし、ついてくんじゃねーよ」 「でも――」  智也が鬱陶しげな眼差しを向けてきた。苛立っているのがありありと伝わってきて、陽翔は眉尻を下げる。  こういったときは時間を置いた方がいい。長年の付き合いからそう判断し、引き下がるしかなかった。 「……わかった。先生には俺から言っておくね」  智也は返事をする代わりに、ふんと鼻を鳴らして行ってしまった。  一人残された陽翔はため息をついて踵を返すのだった。

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