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第8話 もう守られてばかりじゃない(3)

 学校を後にし、智也の家へやって来た陽翔は迷うことなくインターホンを押した。が、反応がない。試しに通話をかけてみれば、何コールかしたのちにようやく繋がった。 「智也、今どこ?」 『……家』 「なら、ドア開けてくんない? 家の前まで来てるんだけど」  喧嘩でもしたような雰囲気が未だに漂っていて、返事を待つも、智也は黙り込んでしまう。正直、こうなることは見越していた。 「コンビニで肉まん買ったから、一緒に食べようよ。まだあったかいよ?」  智也がいるであろう部屋の窓に向かい、手に提げていたビニール袋を掲げてみせる。  程なくして、玄関のドアが開いた。 「食いもんで釣るとか卑怯じゃね?」 「この時間、お腹減るもんねえ」  渋々といった様子で出てきたものの、智也は家の中に招き入れてくれた。 「なんか飲む? つっても、今なんもねーけど」 「いいよ、お構いなく。ついでにコーヒーも買ったから」  そのようなやり取りをしつつ、智也の部屋へ向かう。  部屋に入ると、陽翔はローテーブルの前に腰を下ろした。一方、智也はデスク前の椅子に座る。 「はい、智也のぶん」 「ああサンキュ」  智也は肉まんを受け取るなり、早速手をつけ始めた。  それにならって陽翔も齧りつき、しばらく無言のまま咀噛を続ける。互いにあと数口というところで本題に入った。 「佐藤くんから聞いたよ。智也、また俺のことで喧嘩しちゃったんだね」  智也が一瞬固まる。残りの肉まんを一気に頬張ってから、ぽつりと言葉を紡いだ。 「……本当は殴りたかったけど、シャレにならなそうだからやめた。つか、わざわざそんなこと言いにきたのかよ」 「俺のせいで智也が怪我したんだから、じっとしていられるはずないでしょ。特に今回のは本当のことなんだし、しなくてもいい喧嘩だったじゃん」  咀嚼を終えて向き直ると、陽翔は智也に真剣な眼差しを向けた。 「『本当のこと』つったって、腹が立ったんだから仕方ねーだろ。なにもお前に限ったことじゃねーし、俺らの関係がバカにされてる気がしてすげー嫌だったんだよ」 「智也……」 「そう考える輩がいるってのもわかるし、別に受け入れられたいわけでもねえ。けど、やっぱ複雑になるっつーか――後ろめたいことなんか何もないってのに、無性に気になって……つい、否定するみたいに掴みかかっちまった」  智也は気まずさを感じているらしく、視線を逸らした。  その様子を見つめながら、陽翔は胸の奥がきゅっと締め付けられる感覚を覚える。 「『好き』に、ごめんもクソもねェだろ」  ややあって自然とそんな言葉が口をついて出た。 「え……?」 「って、俺が告白した日に言ってくれたよね。あのとき思ったんだ――もうこの気持ちに嘘はつきたくないって。だから何があっても、俺は『智也が好きだ』ってちゃんと言うよ」  立ち上がって智也のもとに歩み寄っていく。椅子の後ろからその両肩に手を置くと、智也は背もたれに寄りかかるようにしてこちらを見上げてきた。  陽翔は柔らかな笑みを返して続ける。 「もう守られてばかりの俺じゃない。むしろ周りの人が羨ましがるくらいの彼氏に、きっとなってみせるから」  ――君のそういった暗い気持ちが、吹き飛んじゃうくらいのね。  最後はイタズラっぽく口にした。智也は目を丸くしたのち、表情をふっと和らげる。

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