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【十八】都市ワーズワールへ

 俺はその後も、街から街へと移動しながら、依頼をこなした。基本的には、魔物討伐を主体としている。スライムと戦う事が多い。あまり激しい戦闘は、俺は好きではない。ただスライムを倒していると、フォードの事を思い出す。今では一人旅にも慣れてはきたが、やはり二人の方が楽しかった。  だが、さらに頻繁に思い出す存在がいる。  ――ロイ、だ。 「ロイは今頃、何してるんだろうな?」  歩きながら、気づいたら呟いていた。一人で旅をしていると、何故なのか独りごとが増える。永久ダンジョンで一人だった時は、そういうことはなかった。あの時は、寂しさを感じなかった。誰かにそばにいてほしいとも思わなかった。スキル【孤独耐性】のおかげだったのだろう。 「会いたいなぁ」  俺はロイの顔を思い出した。最近、ロイの事ばかり考えている。  ロイは、俺が窮地に立たされると、いつも駆け付けてくれた。位置把握が出来るらしい。けれど、長閑な道を歩いて、スライムとばかり戦っている現在、俺に危険はない。だからなのか、ロイが俺の前に現れる事もない。 「ロイは……きっといい人だから、俺を友達と思って、助けてくれるんだろうな」  友達、と、自分で言ったのに、俺は違和感を覚えた。  ロイはそう思っているかもしれないが、俺はもうロイを友達だとは思っていない。ロイの事を、俺は恋愛対象としてみているような気がする。  そんな事を考えながら、俺は次の都市であるワーズワールへの門をくぐった。  まっすぐに冒険者ギルドへと向かう。  扉を開けて、受付で宿の手配をした。それからクエストボードを一瞥する。歩み寄って依頼書を眺めた。その中に、『こちら二人パーティ。臨時で参加してくれる魔術師急募』というAランクの依頼書を見つけた。詳細を見ると、難易度の高い洞窟型のダンジョンを攻略するから、人手が欲しいと書いてある。今は、双剣士と弓士の二人パーティだと書いてある。 「……」  久しぶりに、誰かと話がしたいと感じた。俺はその依頼書を持って、受付へと向かう。 「食堂の角の席にいますよ。ほら、ローブで顔を隠してる奴と、その隣の装飾具をじゃらじゃらつけてる奴ですね」  受付の青年の言葉に、俺は食堂を見た。確かにその特徴の二人組がいる。  片方の人物は、目深にローブをかぶっていて、顔が見えない。  もう一人は、少々釣り目だが端正な顔をしていて、なんだかゆるっとした空気を放ちながら笑っている。俺はそちらへと歩み寄った。 「あの、パーティの募集を見て、引き受けた魔術師だけど――」 「んー? おお! ありがとう! 助かるわぁ。俺はラキ。こっちはユース」  明るい青年はラキと名乗って、もう一人の名前も紹介してくれた。ローブの人物は、会釈をしたが、何も言葉は発しない。 「俺はジーク。よろしく」 「ん。ジークは――……なんというか、強くはなさそうな見た目だな。平凡っていうか」 「そ、そうか?」 「でも俺、平凡も守備範囲だから、ジークなら抱ける」 「えっ」 「俺の趣味はセックスで、恋人は日替わりだから、ジークも気が向いたら、一夜限りの恋人になってくれてもいいからねぇ」 「お断りだ」 「冷たいなぁ。もう。お兄さん泣いちゃうぞ?」 「俺より年下だよな? お兄さん……?」 「ジークは何歳?」 「二十九歳だ」 「え? 見えないな。童顔なんだなぁ。俺は二十六だよぉ。ユースは二十二歳。ま、よろしく。今日は親睦を深めるために、一緒に飯でも食おうぜ」  ラキの声に、俺は頷いた。久しぶりの会話は楽しい。ただ、ラキはちょっとチャラすぎると思った。一方のユースは、その後の食事中も、一言も話さなかった。  こうしてこの日は宿で休み、翌日の朝、俺達は玄関で待ち合わせをした。  午前四時、食堂でサンドイッチを受け取ってから、俺は二人と合流した。  目的地のダンジョンは、この都市の奥にある闇の森の中にあるらしい。 「――最深部には、ボスがいる。そこまでは調査してるんだよねぇ。ただそのボスは、魔術がないと倒せないんだよぉ。だから俺ら、魔術師を探してたわけだ」  ラキの説明に、俺は頷いた。  ユースが歩き出したので、その後を追う。ユースは小柄だ。背が低い。ローブを着ていても、痩身なのが見て取れる。今朝も、ユースは一言も話さないのだが、ラキがずっと喋っている。くだらない話が多いのだが、俺はついつい噴出した。  洞窟型のダンジョンは、横に伸びている。岩壁の一角に入口があったので、俺は魔術で灯りを点けた。そして三人で進んでいく。一階層に一つ、地下へと延びる扉があった。洞窟は、斜め下に続いている。苔が各地にあって、湿った匂いがする。時折、スライムが出たが、それはラキが弓で倒した。前衛はユースのようだが、ユースはまだ戦っていない。俺も見ているだけだ。ラキはチャラいが、実力は確かに思える。 「ここが一番下だ。この扉を開けると、ボスがいるんだよねぇ」 「どんなボスなんだ? 特徴は?」 「スノーゴブリンだ。水属性の魔物だよ。対抗魔術の火属性で攻撃しないと倒せない」  ラキの目が鋭くなった。俺は頷き杖を構える。 「開けるぞ」  そう宣言して、ラキが扉を開けた。すると吹雪が俺達に襲い掛かった。あまりの激しさに、俺は腕で顔を庇う。  ――その時だった。  ユースのローブのフードが吹雪で取れた。俺がそちらを見ると、ユースが慌てたようにフードを押さえている。俺は目を丸くした。見ればユースの髪は人間ではありえない緑色をしていて、目の色は緋色だった。その上、耳がとがっている。人間ではない。 「ジーク、攻撃してくれ!」  ラキの声で、俺は我に返り、スノーゴブリンに向けて攻撃魔術を放った。  すると一撃で、スノーゴブリンは倒れ、その場には宝箱が出現した。  一仕事終えた気分で、俺はまじまじと宝箱を見る。ラキが歩み寄り、蓋を開けた。すると、黄金に輝く弓が出てきた。 「これだよこれ。俺はこれが欲しかったんだ。助かったよ、ジーク」  ラキが明るい声を出し、両頬を持ち上げた。 「よかったな」  俺も笑顔を返す。そうしたら、ラキが、ユースを見て息を飲んだ。 「フードが取れたのか?」 「……うん」  その時初めて、ユースが喋った。とても小さな声音だった。  俺がそちらを見ると、ラキがユースの前に立ち、庇うように腕を伸ばした。 「ジーク、聞いてくれ。ユースは、半魔だ。でも、すごくいい奴なんだよ。俺が保証する。だから攻撃するなんて言わないでくれよ?」  ラキが今しがた入手したばかりの弓を、それとなく俺に向かって構えた。俺は慌てて、頷いた。 「別に俺は、魔族にも半魔にも、差別意識はない」 「本当に? 絶対にか? 誓えるか?」 「ああ」 「――そっか」  俺の答えに、二ッとラキが笑った。ユースは不安そうに俺を見ている。俺は安心させようと、ユースに笑いかけた。 「よろしくな。改めてだけど」  すると小さくユースが頷いた。  その後、ユースはフードをかぶりなおした。こうして俺達は、無事にダンジョンを攻略したので、外へ出る事にした。歩きながら、ラキが俺を見た。 「俺とユースは、基本的に自力で武器を調達するためと、旅費を稼ぐために、依頼をこなしてるんだ。ジークは?」 「俺は、これから何をするか考えながら、旅をしてるんだ。だから、その都度、依頼を引き受けてる」 「そうか。暫くは、この都市にいるのか?」 「そうだな……ここからは、いくつかの街への分岐があるから、少し考えるために、滞在したいとは思ってる」 「だったら、その間、俺とユースとパーティを組んで、討伐しないか?」  その誘いに、俺は大きく頷いた。なお、パーティは、半魔や魔族とも組む事が可能だ。冒険者証は人間の戸籍がないと発行されないから、魔族は冒険者にはなれない。ただ半魔は人間との混血児であるから、人間の戸籍も基本的に保持しているので、冒険者になれる。 「半魔を許容してくれる人間は、少ないからなぁ。ジークが本当にユースと一緒でもいいっていってくれるなら、一緒に活動したいねぇ」 「ああ。俺も、一人旅に飽きていたところだから、よかったら、よろしくな」  こうして、俺は、ラキとユースのパーティに入れてもらった。

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