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【二十三】勇者パーティの面々
冒険者ギルドの食堂で、俺は大陸新聞を広げた。そこには、『勇者一行、アーゼアナ連邦』という見出しがあった。俺は来ていないと考えていたのだが、なにやら神殿が協力して、魔法陣で移動してきたらしい。神殿から神殿には、転送魔法陣がある場合がある。
「避けよう」
会いたくない。裏切者だと思われている以上、顔を合わせてもいい事は無いと思う。そう考えながら、俺はチーズがのったパンを食べていた。勢いよく冒険者ギルドの扉が開け放たれたのは、その時の事だった。
「大変だ!! 新緑ダンジョンの最深部のボスに、勇者一行の全員が襲われて、木の根で取り込まれそうになっている!! このままでは、勇者ハロルド達は全滅だ! 魔王を倒す希望が消える!!」
駆け込んできた冒険者の声に、その場が一瞬静まり返った。それからざわめきが広がり始める。俺は嫌な汗をかいた。避けようと思ってはいたが、元仲間達が襲われていると聞いたら、さすがに放っておくことはできない。
「場所は何処だ?」
「新緑ダンジョンは、ここから右にまっすぐ行ったところだ!!」
「助けに行ってくる」
俺はそう告げて、足早にギルドを出た。
外に出てからは、全力で走り、ダンジョンを目指す。杖を握りしめながら、間に合う事を祈った。そしてダンジョンの入り口を見つけ、俺は急いで最深部へと向かった。
するとそこには緑色の巨木があって、木の根が触手のように蠢いていた。
「っ」
勇者、第二王子殿下、聖女、賢者――嘗ての俺の仲間四名が、皆その木の根に絡めとられ、木の中に引きずり込まれそうになっている。俺は杖を握りしめ、脳裏に魔法陣を描く。そして攻撃魔術を放ち、木の魔物を焼き払った。胴体である幹が燃え尽きると、木の根もまた炭になって焼失した。
「大丈夫か?」
俺が声をかけると、地面に落下していたハロルドが、顔を上げた。土で頬が汚れている。
「ジーク……?」
「ああ。久しぶりだな」
「助けてくれたのか」
「まぁな」
「――強くなったんだな」
ハロルドが、不意に微笑した。ただハロルドは、俺を追放したあの日だって笑っていたから、俺は笑顔であってもそうでなくても、ハロルドが恐ろしい。
「戻ってこないか? 勇者パーティに。今のお前なら、勇者としての資格が十分ある」
ハロルドが述べると、隣で立ち上がった第二王子殿下が口角を持ち上げて、大きく頷き同意した。
「ハロルドの言う通りだよ。戻っておいで、ジーク」
すると聖女と賢者も頷いた。
だが俺は首を振る。
「いいや、俺は戻らない」
何せ俺は、魔族達を悪いとは思っていない。いい人々かは分からないが、少なくとも根拠もなく倒そうとはもう思えない。
「そうか、残念だ。ただ、お礼もしたいし、話もしたい。ジーク、これから食事だけでも付き合ってくれないか?」
ハロルドがどこか切ないような笑みを浮かべた。俺は困惑して、瞳を揺らす。
すると歩み寄ってきたハロルドが、両手で俺の手を握った。
「いいよな? 行こう」
「え、あ……」
そしてそのまま俺の手首をきつく握り、歩き始めた。断るタイミングを逃した俺は、そのまま流されるようにして、ハロルド達が滞在しているという、高級な宿の一室に連れていかれた。すると賢者が、俺にグラスを渡した。
「喉が渇いただろう?」
「あ、ああ。ありがとう」
受け取り、俺はそれを飲み干した。不思議な味がして、苦いような甘いような、なんとも表しがたい複雑な味だった。美味しくはないなぁと考えていたその時――急に眩暈がして、俺の視界が二重にブレた。次の瞬間、俺は絨毯に頭をぶつけていた。それを認識した直後、俺の意識は暗転した。
「……っ」
次に俺が目を開けると、俺は後ろから第二王子殿下に腕をとられて抑え込まれていた。正面には、ハロルドがいる。俺は寝台の上で、後ろから第二王子殿下に、正面からは勇者に、何故なのかはさまれていた。
「俺は……」
頭痛がする。瞬きをすると、目の前で、ハロルドが残忍な目をして笑った。
「ジーク。戻ってくる気にさせてやるよ」
「は?」
「――快楽堕ちさせて、下僕にしてやる。俺の言いなりにさせる。俺に抱かれるなんて、幸せだろう? お前みたいな平凡じゃ、俺のような勇者に抱かれる事など本来はないんだからなぁ」
俺は唖然とした。ダラダラと冷や汗が浮かんでくる。だんだん意識が清明になってきた。藻掻こうとしたが、背後にいる第二王子殿下が、より強く俺の体を拘束した。
「ハロルド、次は僕にも抱かせてくださいね」
「ああ。みんなで楽しもう。ジークも本望だろう」
ニヤニヤ笑ったハロルドは、直後俺の服に手をかけて、強引に引き裂いた。
俺は恐怖で凍り付いた。
ハロルドが、俺にのしかかってくる。思わずギュッと目を閉じて、俺は叫んだ。
「ロイ、助けて!」
無意識だった。
ロイ以外に、触れられるなんて、絶対に嫌だと思いながら、目を開けて迫ってくるハロルドの手を見る。
「!」
ハロルドの体が派手に壁に激突したのはその時の事だった。
俺に触れようとしていたハロルドを、蹴り飛ばしたのは、ロイだった。
俺は目を見開く。俺の後ろにいた第二王子殿下が、慌てたように退避した。
ロイは、直後、立っていた聖女と賢者の首に手刀を叩き込んで気絶させ、最後に残っていた第二王子殿下の背後に回り、こちらも気絶させた。俺は震えながら、それを見ていた。
するとハロルドが、ぶつけた額を押さえながら、振り返った。
そしてロイを見ると驚愕したように、唇を震わせる。
「ま、まお――」
だが、何か言いかけた瞬間、ロイが勇者の腹部に膝を叩きこんだ。結果、ハロルドも気絶した。
「ジーク」
ロイは俺のもとにやってくると、俺を抱きしめた。力強い腕の感触に、俺は必死で息をしながら、落ち着こうと試みる。
「大丈夫か? いいや、愚問だな。大丈夫なはずがない」
そういってから、ロイは俺の髪を優しくなでた。
その瞬間、俺の涙腺が決壊した。ボロボロと涙が零れ落ちていく。恐怖が浮かび上がってきて、俺はロイの胸元の服をぎゅっと握りしめて、号泣した。
「怖かった。っく……怖かった」
震えながら俺が泣いていると、ロイが外套を脱いで、俺にかけてくれた。
ロイの香りがする。俺は泣きながら、ロイを見た。
するとロイがより強く俺を抱き寄せた。その直後、俺達の周囲が光り始め、下を見ると魔法陣が見えた。そのまま俺は、光りに飲まれた。
瞬きをした次の瞬間、俺はいつかも連れてきてもらった、豪華な部屋にいた。
ロイは俺を抱きしめなおすと、顔を傾けて、俺の唇にキスをする。
まだ震えが収まらない俺は、ロイの体に両腕を回す。ロイはそんな俺の涙を指で拭い、落ち着かせようとしてくれているのか、何度も髪を撫でてくれた。
「もう安全だ。心配は何もない」
その言葉に、俺は頷いた。俺はロイが好きだし、ロイを信じている。ロイがそばにいてくれたら、安心だと確信している。ずっとロイのそばにいたい。
「ジーク、ゆっくり休んだ方がいい。まずは、入浴するといい」
「そうだな……」
触れられこそしなかったが、服を破られた衝撃が強いから、お湯で流してしまいたいと思い、俺は頷いて、入浴した。必死で体を洗ってから外に出ると、新しい服が用意されていた。ありがたくそれを借りて、俺が室内に戻ると、ロイが水の入ったグラスを俺に渡してくれた。喉が癒えていく。やっと落ち着いてきた気がした。
「少し眠るといい」
「うん。なぁ、ロイ……そばにいてくれないか?」
「ああ、ここにいる」
その言葉に安心しながら、俺はベッドに入った。すると疲労が一気に襲い掛かってきて、俺はすぐに睡魔に飲まれた。
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