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ユートが着てきたヨレヨレの服は、入浴中に成吾に捨てられていた。代わりの服を渡されたが、長身の成吾のものなので当然ぶかぶか。ズボンはどうやっても腰が脱げるのであきらめて脱いだ。少し屈めばパンツが見えそうで、これで出ていくのはまずいかな、と少し悩んだが、他にやりようがなかった。
内股ぎみでリビングに戻る。成吾はユートの生足姿について、一瞥しただけで何も言わなかった。
「おかえり。さぁ早く席について」
食事が届いていて、白いテーブルクロスの上に前菜からデザートまで、テーブル一杯に料理が並んでいた。マンションの2階にレストランが入っていて、住民なら電話一つで済むので、成吾はほとんど毎日頼んでいるらしい。
「味はそこそこだけどね。俺は外食って面倒で好きじゃないんだ。たまになら美味しい店に連れて行ってあげてもいいけど、普段はこれで我慢して」
金色のシャンパンも横で冷えていた。成吾が慣れた手つきで栓を抜いて、2人のグラスに注ぐ。勢いよく泡が上り弾けていった。
乾杯。あまりお酒に慣れていない、どちらかといえば苦手なユートは恐る恐る口をつける。まるで天国の飲み物だった。料理だって、成吾はそんなに気に入っていないそうだが、ユートには信じられないくらいおいしい。少なくとも今まで食べてきた、お腹を満たすためだけの菓子パンやインスタントラーメンなんかとは比べ物にならない。自分は少食だと思っていたのに、いくら食べても止められず次から次に口に運んだ。
「口にあったなら良かったね。俺が仕事で留守の時は自分で電話して頼んで。他に欲しいものや困ったときは、一階にいるコンシェルジュに言えばいい。すぐに部屋まで届けてくれるよ。ユートには留守番の時間が長くて、寂しい思いをさせるけど、それ以外はきっと快適だ」
メインディッシュまで終えて、やっとユートの食欲が少し落ち着いたところで、成吾はユートにここでの過ごし方をレクチャーした。成吾は医者の仕事が忙しくて、何日も留守にすることもある。その間ユートはここで一人で留守番をしなくてはいけない。
「分かったか?」
「はい。でも買い物くらい自分で行きます。そのほうが安く済むと思うし……」
成吾さんのおつかいだってしますよ! 意気揚々で申し出たユートに、成吾は鼻で笑い返した。
「分かってないな。ユートは外に出るな」
「……外に出たらだめですか?」
きょとんと聞き返したユートを、成吾が軽く睨む。
「俺の許可があればいい。でなければダメ。俺に飼われるんだから当たり前だろ。先に言っておくけど、言いつけを破ったらお仕置きだからな」
「……お、お仕置き……?」
成吾は当然だと言い切った。
「俺はユートをいじめたりしないけど、ユートが悪い子だったらお仕置きはするよ。ムチで背中や尻を痛めつけてやる。分かったな」
「……はい」
成吾に叱られ叩かれる。ほんの少し想像しただけでもユートは悲しくなった。しかしすぐに気を取り直す。ペットとして拾ってもらったんだから留守番とお出迎えが大事な仕事なのは当たり前だし、自分は絶対に約束を守る。だから大丈夫。お仕置きなんて絶対に受けない。
そう自分に言い聞かせて、残っていたデザートに手をつけた。
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