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成吾に手を引かれるまま、ユートは成吾のベッドに入った。成吾が天井の明かりを消して、ベッドサイドに置かれたランプの淡い光だけになる。
「こっちにおいで」
緊張していたら成吾がそっと手を伸ばして腕枕に誘ってくれた。おずおずと近寄っていくときは心臓が破裂しそうだったのに、いざ、ぎゅうっと抱かれたら久しぶりに感じた人肌のぬくもりに心がとろとろに溶けていった。
「成吾さん……僕、成吾さんのことが好きです……」
言ってすぐに、拒絶されたらと怖くなったが、
「俺もユートを愛してる」
成吾は、あっさりと受け入れてくれた。
驚いて顔を見ると、成吾は照れたりもせずごく爽やかに笑っている。ああそうだ、ペットだもんね僕は。ユートはちょっとだけがっかりして、でも愛してるなんて言葉に胸が一杯になった。
「成吾さんにずっとそう言ってもらえるように、僕これからなんでも頑張ります」
「うん。よろしくね」
お互いに腕を回して抱きしめ合った。微笑み合うとまるで本当の恋人みたい。
「ユートをこれからずっと大切にするよ」
「うれしいです……」
正直なところ、成吾がすぐ心変わりしないか不安だった。可愛らしい子犬や子猫のペットを飼っても、すぐに飽きて捨てる人がいるのに、なんのとりえのない自分が、本当にいつまでも愛して貰えるものだろうか。
「僕はもう、成吾さんのことが心から大好きになりました。僕に出来ること、家事でもお手伝いでもなんでもしますから、ずっと傍にいさせてくださいね」
「健気だね」
温かい手が頬に触れる。
「でもだめだよ、ユートはメイドじゃなくて、ペットなんだから。もっともっと俺を好きになって可愛い姿を見せて。それがユートの仕事だよ」
成吾に「ちょっとやってみてくれる?」と頼まれる。
「僕なんかで満足してもらえるなら……」
ユートは精一杯、成吾に甘えてみた。
「成吾さん……♡ 大好きです♡ お家に入れてくれて、可愛がってくれて、ありがとうございます♡♡」
上目遣いに女の子みたいな高い声。軽いボディータッチもした。成吾が嬉しそうにするのを見て、一層張り切る。熱があって頭がぼんやりしているせいか、恥ずかしさを感じずに出来た。
「好き好き♡♡」
「ふふ、これから毎日いっぱい遊ぼうね。明日、診察の帰りに楽しめそうなおもちゃを色々と買ってくるから」
「はい♡ 楽しみです♡」
成吾の胸に擦り寄りすんすんと匂いをかぐ。最初はこの匂いに頭が痛くなったが、成吾を好きになった今はもう、とても心地よく感じられるようになっていた。
「もっと顎を上げてごらん」
「はい♡……ん♡……、ふぁっ♡」
成吾と顔の位置を合わせて、頬をすりすりする。たまに唇同士が触れ合った。ふわっとくっついて、すぐに離れる。だんだんとその回数が増えて、もういっそ、こちらからキスしてしまいたくなったけれど、ペットの立場をわきまえて我慢した。
「俺の身体の上に乗っていいよ」
おそるおそる身を委ねたが、ユートの体重くらいでは成吾はびくともしなかった。温かい体温と鼓動を感じてうっとりと目を閉じる。成吾の手のひらがユートの身体を上から下にたどっていった。頭から肩、背中。次に腰へ降りていき、お尻もしっかりと撫でられる。
「うんいいね。痩せすぎてるけど骨格に歪みがない。肌もきれいだし食べたらきっと美味しい」
「僕を食べるんですか? ならちょっとだけ、味見してみてください……♡」
舌なめずりしている成吾を見て、ユートは思わず唇を向けた。今なら軽い気持ちでキスしてもらえそう。そう思ったが、成吾はあらぬ方向にそっぽを向いてしまった。
「…………」
「ふふ。あからさまに落ち込んじゃって。そういう無邪気なところがとっても可愛い」
その一言で、しぼんだ心もあっというまに元通りになった。
「そんな♡♡ 嘘ばっかり♡ 僕なんか可愛いわけがない、むしろブサイクなのに♡♡」
「嘘なんて面倒なだけだから俺は言わない」
「っ! はぅん♡♡」
ぞくぞくと身体を震わせるユートの耳に成吾の舌が入り、ペロペロと舐め回す。
「ん──ー♡ ……んん、ンっ♡……まって、それだめです♡ あああんっ♡」
甲高い声をあげてしまって、ユートは顔を赤らめた。
「……い、今の変な声はあの、成吾さんがくすぐったいことするからで……」
「俺のせいにするな」
言い方を間違えた。そう思って慌てて謝ろうとしたが、それより先に頭を持たれてうなじに吸い付かれた。
「ユートが甘い香りを出して俺を誘うのが悪いんだよ」
「僕……?」
成吾がうなずいているが、ユートには特に思い当たることはない。ユートはそっと自分の胸元を嗅いでみた。やはり甘い匂いなんてしていない。それにユートは香水なんて使ったことさえないし、シャンプーやボディーソープ、服、いま身につけているものはすべて成吾から借りたものだ。
「なんの香りが移ったんでしょうか……」
違うと否定される。
「これはユート自身の匂いだよ。南国の果実が、もうすぐ食べ頃だって教えているような華やかで甘酸っぱい香りがしてる」
そんな事は生まれて初めて言われた。首を傾げるユートを成吾はなおも嗅いでいる。
「すぐに自分でも分かるようになるよ。今はかすかな香りだけど、この甘美なフェロモンは成熟するにつれてだんだん強くなっていくから。……外の散歩はほどほどにしないとな。ユートが他の奴にも見つけられてしまう」
成吾が何を心配しているのか、ユートにはまったく分からない。ただ週末のデートの約束が撤回されそうなのが嫌だった。
「僕なんて誰も気にしませんよ! 僕は成吾さんといっぱいお出かけしたいです! デートには絶対連れて行ってください!!」
ユートはただ甘えたつもりで、まさか成吾の怒りに触れるとは思いもしなかった。しかしみるみる成吾の表情が変わっていく。
「俺の言うことに口答えするな!! 俺がだめだって言ったらだめなんだよ、ユートはそれに従え!!」
成吾が吠えるように叫び、ユートの肩をつかんで喉に噛み付こうとする。ユートは悲鳴を上げて必死にもがいた。
「ごめんなさい! 全て成吾さんに従います! ここでお利口さんにしてますから!!!!」
「それでいいんだよ」
成吾がすっと冷静な顔つきに戻る。驚かしてごめんと、ほほ笑みさえ浮かべた。しかしその豹変ぶりが余計に怖かった。
「俺の言うことはしっかりと聞け。ユートだってきついお仕置きを受けるより、俺に可愛がられてご褒美をたくさん貰うほうが幸せだろう?」
「はい、もちろんです……」
成吾は満足した様子でうなずく。それからユートのシャツをつかんで、一気に胸の上までたくし上げた。
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