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「やあ成吾。今夜は俺の店に来てくれてありがとう。久しぶりだけど元気そうで良かった」
ルイが成吾に近づいて肩を抱く。端正な顔立ちで金髪に青い目をしている。生粋のフランス人だそうだがずいぶん日本語が堪能だ。
成吾が連れてきたユートにちらりと目をやり、「もしかして恋人か」と成吾に小声で聞いたので、ユートは思わず真っ赤になった。
「まぁね。ユートって言うんだ。いま一緒に暮らしてる」
「ワーオ!」
ルイの大きな歓声に驚いてユートまで声を上げそうになった。ルイは顔を輝かせて成吾を見つめている。成吾と同い年と聞いていたが笑顔がとても無邪気で、まるで少年のようだ。
「それってつまりゴールイン間近ってこと!? やったじゃないか!! 理想が高すぎて、どんな美女にもまるで目もくれなかった成吾がとうとう見つけたんだね! 確かにとってもお似合いだよ!!」
成吾の胸を何度も肘でつついてからかったあと、ユートの方に近づいてきた。
「そうと知れば、運命の二人のために最高のシャンパンを用意しなくちゃね。ユートくんってずいぶん若く見えるけどいくつ? さすがに未成年じゃないよね? そうだ、生まれ年のビンテージワインなんかもいいかな」
目を見て聞かれているが返事はできないし、ユートは困って首を横に振る。代わりに成吾が答えてくれた。
「なにをそんなにはりきってるんだ? さては祝うふりをして、できるだけ高いやつを売りつけようって魂胆か? ……まぁそれならそれでいいけど、その代わり、ユートには手を出すなよ、いいな」
成吾とルイはイギリスにある名門パブリックスクールで出会い、寮では同室だったそうだ。それがどういうものかユートにはさっぱり分からないものの、二人はきっと仲がいいはずなのに、成吾はルイを真剣に睨みつけていた。
対するルイはその成吾に少しも臆さずに、毅然と笑っている。
「ハハ。見くびるなよ。俺はそんなにケチじゃないし、なによりも友人を大切にする男だ。二人のために、この店で一番のワインをプレゼントしてあげよう」
ルイの申し出を、「いらん」と成吾は一刀両断した。
「勘違いするなよ。ユートをここに連れてきたのは、たまにはユートにもいい食事をさせてやろうと思っただけで、お前に会わせたのはついでで顔と名前を覚えてくれたらそれでいい。もうユートに構うな。話しかけるのもダメだ」
「え~~~? そう言われると逆に気になっちゃうよ……」
ルイが試すみたいにユートの肩に手を伸ばす。予想通りに成吾に払いのけられると大喜びして、その笑顔をユートに向けた。
「やったねユートくん、成吾ったら君にべた惚れじゃない!! せっかくだから、エンゲージリングは君の瞳くらい大きなダイヤにしてもらいなよ。一度海外のオークションで見たことがあるんだけど、息を呑むほど美しかったよ」
ルイの大きなウィンクが飛んでくる。
「…………」
ユートは何も返事しなかった。成吾の言いつけを守って人形のようにじっとしたまま。
1秒ほど間をおいて、ルイは成吾の方へ向き直した。
「……ね成吾、君なら簡単に買ってあげられるよね~?」
「余計なお世話だよ。そういうのは俺とユートで考えるから、ルイはさっさとワインを探しに行ってくれ」
成吾にもつれなくされて、ルイは唇を尖らせブーイングをしてから去っていく。
「じゃあまたあとでね、ユートくん」
「…………」
後ろめたさにかられながら、ユートは去っていくルイの背中を目の端で見送った。
貸し切りのテラス席に着席し、成吾と二人になった途端、ユートは伏せていた目を見開き大声を上げた。
「ああああぁのっ!?」
向かいの成吾が驚いて、水の入ったグラスを取り落としそうになっている。
「なんだよ……いきなり叫ぶな。びっくりするだろ」
「すっ、すみません!」
ユートはぺこぺこ頭を下げ、そのまま両手で顔を覆った。怒られたのに口がゆるんで収まらない。
(成吾さんがめんどくさがってちゃんと訂正しないから、ルイさんの中では僕が成吾さんの恋人になっちゃった!!! ……成吾さんはそれでいいのかな!?)
指の隙間から盗み見た成吾は、何もなかったようにメニューに目を落としている。ユートは落ち着けずにずっとそわそわして、最後には椅子からすっ転んでしまった。
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