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第2話

 グラウンドに、サッカーボールの跳び交う音とかけ声が響いている。  じっとその様子を眺めながらも、千聖の頭を占めるのは先日遭遇してしまった告白現場のことだ。  木崎千聖は城華学園高等学校の一年生で、サッカー部のマネージャーを務めている。  ほんのり桜が混じったような上品なパールホワイトの髪。肌は透き通るように白く、とても外部活をしているとは思えない。おっとりと垂れ気味の眉と薄い唇近くに咲いたほくろは、話し相手の視線を奪ってしまうくらい可憐だ。  そんな千聖の薄桃色の瞳の先を追うと、必ずと言っていいほど翔護の姿がある。  同じ一年生でサッカー部に所属する内藤翔護は、今日も息を切らせながらコートの中を走り回っていた。  動きやすさを重視した髪型はストレスのない短髪だったけれど、流行に敏感な高校生らしく襟足を刈り上げたツーブロック仕様で、飾りすぎないシンプルさがネイビーブルーの髪色と相まってよりおしゃれに見える。きりっとあがった眉が、笑うと柔らかく砕けるのが千聖は大好きだった。 (……翔護の笑顔なんて、もうぼくに向けられていないけれど)  ぼんやりとした千聖の横をボールが通り過ぎていく。部員に声を掛けられてようやく我に返った千聖は、掴んだそれをコートへ向かって大きく投げて返した。  これでも、まだましになったほうで、あの日から数日は本当に使い物にならなかった。  結局部活には遅刻をしたし、帰りだって気がついたら自宅をとっくに通り過ぎて、知らない家の飼い犬に吠えられて引き返す始末。  勉強にも身が入らず、指されてもいないのに起立して解答したことを思い出すと、今でも恥ずかしさにうずくまってしまいたい。  昨日、洗ったことを忘れて放置して帰ったくしゃくしゃのユニフォームは、いま洗濯機の中でもう一度ぐるぐる回っている最中だ。  考えないように。  気にしないように。  と、思えば思うほど、それはかえって呪文のように千聖を縛り付けている気がする。 『好きなやつがいるんだ』  と翔護は言った。それが一体誰なのか千聖にはまったく見当もつかず、彼と仲の良い人の顔を思い浮かべては、この人かもしれないと正解のない想像をして悶々と毎日を過ごしている。

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