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第3話

 千聖と翔護はいわゆる幼馴染みだ。それでいて、遠い親戚関係でもある。  翔護の父の兄嫁と千聖の母が姉妹で、さらには翔護の母と千聖の母が幼馴染みでとても仲が良いという、なんともわかりにくく深い繋がりで、幼い頃から一緒に過ごすことが多かった。  当時、翔護の家族は県外に住んでいて、長期の休みになるとよく千聖の家に遊びに訪れていた。  うんと小さな頃からたびたび会ってはいたようだけれど、物心がついて初めて翔護を認識したのは城華学園の初等部へあがってすぐの夏休みだったと思う。  翔護は幼い頃から活発で、始めたばかりだというサッカーに夢中だった。千聖はといえば、その頃は少しだけ日の光に弱く、すぐに肌が赤くなってしまうので室内で静かに本を読んでいるような子供だった。 「公園行こ!」  そうやって翔護に手を差し出されたとき、千聖はとても嬉しかった。千聖のことを知る近所の子供たちは、もう千聖に遊ぼうと声を掛けてくれることはなかったから。久しぶりの誘いの言葉に、小さな心臓が嬉しさに大きく跳ねたのを今でも覚えている。 「うっ……ううん、ボクはお外で遊べないの」  思わず「うん!」って大きな声で頷いて、差し出された手を握り返し燦々と輝く太陽の下へ飛び出してしまいそうになってから、千聖は慌てて首を左右に大きく振った。 「なんで?」  怪訝そうな顔で翔護が聞く。自分と他人に違いがあるなんて思わない、子供の顔だ。  ああ、また置いて行かれちゃうなって、千聖は諦めのまま小さな両の足をもじもじと擦り合わせた。 「お日さまのひかりにあたるとね、手とか足とか真っ赤になっていたくなっちゃうから、だめってママにいわれてるから……」 「ふーん」  案の定、翔護はあまり興味がなさそうに相づちを打って、すぐに玄関へと消えてしまった。がちゃりとドアの開く音がして、小さな足音が外を駆ける音がする。  慣れたことだったけれど、一度期待に膨らんだ胸はすぐには萎まなくて、千聖は少しの間立ちすくみ、胸に握りしめた小さな拳をあてたまま翔護の出て行ったドアを見つめていた。しばらくして、しょんぼりと読み飽きた絵本を手にしたとき、庭から大きく千聖を呼ぶ声がする。 「ちぃ!」  ウッドデッキの先で、サッカーボールを手にした翔護が、千聖に向かって手を振っていた。 「そこから見てんのは平気だろ? おれ、リフティングできるようになったんだ! 何回できるかかぞえてて!」  そう言って、翔護が得意そうにボールを蹴り上げたので、千聖は慌てて窓辺へ駆け寄ると、日陰に座って跳ねるボールを目で追った。  数えながらほんの少しだけ泣いてしまったのは、こうして自分に合わせて遊んでもらえたも、あだ名で呼んでくれるような友達が出来たのも初めてだったからだ。

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