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第5話

「ちぃ、今日はビッグニュース持ってきた」 「え、なに? もしかしてもうスタメン入りした!?」  中学へ進学し、もちろんサッカー部へと入部した翔護は先日実力テストがあったと話していた。地元のサッカークラブではすでにエースストライカーとして活躍している翔護のことだから、すぐにスタメン入りをしたっておかしくない。  学区は別だったけれど、この夏の大会、うまくいけば城華学園とはちょうどベスト8で戦うことになる。コートで活躍する翔護の姿が見られたらいいなと思っていたから、こうも早く願いが叶うなんて嬉しいことこのうえない。 「それよりも、もっとすっげぇの」 「もっと?」 「そ~」  答えを聞かないうちから期待に胸を膨らませる千聖に、電話越しの翔護がもったいつけたように含み笑いをする。  残念ながら予想は外れたようだけれど、翔護の様子からして良いニュースには違いなかった。 「なになに、気になる。教えて」 「驚いてひっくり返るなよ」  もったいぶる翔護に答えを急かせばそう言われて、千聖は自室のベッドに寝転んだまま自転車を漕ぐように足をばたつかせた。  ひっくり返ってしまうほどのビッグニュースなんて、一体何なんだろう。  もしかして、スタメンを通り越してスカウトが来た……とか。  翔護なら十分にありえるなと思いながら、千聖は覚悟を決めるようにごくんと固唾を飲み込んだ。 「う、うんっ」  一瞬の沈黙のあと、スピーカーフォンに設定したスマートフォンから翔護が静かに息を吸い込む音が聞こえる。 「俺……城華に編入決まった」 「えーー……!」  ドスン、と音がしたのと、背中に衝撃を感じたのはほとんど同時だったように思う。翔護の言葉に驚き、慌ててスマートフォンへと手を伸ばした千聖は、シーツに滑りそのままベッドの下へと落下してしまったのだ。 「ちぃ、ひっくり返ったろ」  やばい音したと爆笑している翔護の声が、一緒に転がり落ちたスマートフォン越しに聞こえる。 「か、返るに決まってるじゃん! え、なにそれ。全然聞いてない!」 「言ってねぇもん」  千聖の反応に翔護は上機嫌のようで、いつもより温度の高い声が千聖の心も浮き立たせた。 「ほんとに……?」 「うん。来週から」 「わ、わー……どうしよう。夢じゃないよね、痛いもん」 「ん」  ぶふっと吹き出した翔護の吐息が、画面越しに伝わってくるようだ。ひっくり返ったまま、じんと痛みで現実を実感する。

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