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第6話

 それにしても、新学期が始まったばかりなのにどうして、と嬉しい気持ちのなかに混じる不安を問えば、翔護は「あ。全然、心配するようなことはねぇから」と前置きしたうえで、引っ越すのだと教えてくれた。  急に父親の転勤が決まり、いろいろと家族会議があったらしい。父親のみ単身赴任で行くか、それとも、赴任先へ家族一緒について行くか。  転勤の話が出た頃、翔護はすでに地元の中学校への入学が決まっていて、もともと期間もそう長くなく戻ってくる予定だったから、最初は母親と翔護は残る話になっていたそうだ。  けれど、日が経つにつれ母親が不安がり、幼馴染みで親友である千聖の母親の近くにいることを希望したため、結局、赴任先へついていくのではなくこっちへ引っ越してくることになったという。  このタイミングでなくとも、将来的にはこちらへ越してくる予定だったそうだから、それが少し早まっただけだと翔護は笑っていた。  千聖以外の家族はすでに知っていたらしく、母がここ最近ずっと機嫌良くしていたのもきっとこのせいだろう。翔護と千聖と同じように幼馴染みである彼女たちは、とても仲が良いのだ。きっと嬉しかったに違いない。  嬉しさにおいては、千聖だって負けはしないけれど。 「……それに、お前が」 「え? なに?」  考えこんでいたせいでよく聞き取れず、聞き返すけれど、翔護は「やっぱいい」と言ったきり繰り返してはくれなかった。  翔護が通っていた中学よりも、城華学園のほうがサッカーとしては強豪だ。練習内容も高校サッカー部としては充実しているし、そんなところも編入の決め手になったのかもしれない。  城華学園は初等部から大学まで続くエスカレーター式の学校だ。よほどのことがなければ、ほとんどの生徒は初等部からずっと持ち上がりで進学していくため、翔護のように途中から編入してくるケースは珍しい。  きっと、注目の的になるだろう。  そうしたら、千聖は自分の大切な幼馴染みだと自慢してやろうと心に決めて、それからはたと起き上がった。

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