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第8話

「わかった」  その後はスムーズに話が進み、あっという間に見学当日。  千聖があんまりにも落ち着きなく部室のドアを開けたり閉めたり繰り返すものだから、案の定、キャプテンにはすぐにばれてしまって、爆笑されたうえに顔を合わせるたびに意味深な視線を寄越される始末。「再会愛が盛り上がるかも知れないし、緊張、解しといてやろうか?」なんて余計なお節介で、告白のデモンストレーションまでされてしまった。  ドアに手をついて迫られる……いわゆる壁ドンというスタイル。好きだという言葉とともに顔が近づき数秒見つめ合って、耐えきれず吹き出したのは同時だった。外でジャリと砂を踏んだ足音も、笑い声にかき消される。  もしも、相手が本当に翔護だったら。翔護に好きだって言われたら、千聖は二つ返事で「ぼくも」と答えるだろう。少し背伸びすれば届く唇に、自ら触れていたかもしれない。  いつかそうなったらいい。だって、これからは今までよりももっと近くに翔護がいる。数ヶ月に一度会えるかどうかを待ち遠しく思う必要はなくて、会いたいときにいつでも会えるのだ。  恋を実らせるチャンスが、いつか千聖にも巡ってくるかもしれない。  キャプテンの冗談にいくらか緊張の解れた千聖は、今か今かと翔護がやってくるのを待ったけれどーーその日、約束の時間を過ぎても、部活動の終了を知らせるホイッスルが鳴っても、翔護がグラウンドへ現れることはなかった。

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