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第12話

「今日から、よろしくね」 「……」  体に見合わない大きなボストンバッグを担いでやってきた千聖を見て、翔護は舌打ちまではしなかったものの不機嫌さを隠そうともしなかった。  深くため息を吐くと乱暴に頭を掻いて、そのまま二階にある自室へと引き上げてしまう。 「……」  週の初め、ただでさえ憂鬱さが体にまとわりついているというのに。開始のホイッスルが鳴って早々、千聖は挫けてしまいそうだったけれど、ぐっと唇を噛みしめて耐える。  優しかった翔護がこんなにあからさまな態度を取るなんて、自分はいったい何をしでかしてしまったのか。  きっと、何か理由があるはずなのだ。翔護が千聖を避ける、大きな理由が。  その原因を突き止めて、関係の修復をはかる。  それから、あわよくば……翔護の好きな人が知りたい。 「負けないよ」  ふんっと息荒く拳を握りしめる。  まずは、家の中の探索からだ。  引っ越して来る前の内藤家には何度か遊びに行ったことがあるけれど、こちらに越してきてからの家にお邪魔するのは初めてだった。まだ新築の新しい匂いがする。  持ってきた『翔護としたいことノート』の中のひとつに〝翔護の家に遊びに行く〟という項目がある。 翔護本人が歓迎しているかどうかはさて措き、家の中に入れたことは事実だ。丸はつけられなくても、三角くらいならつけてあげてもいいかもしれない。 「先にごはん仕舞っちゃおうかな。それからいろいろ見させてもらおう」  家の鍵はスペアを渡されていて、自由に出入りすることが出来た。 本当なら、約束したとおり翔護と一緒に登下校したかったけれど、今の二人にそれは難しい。 (でも、いいんだ。この三週間で一緒にできるようになるのが目標なんだから)  目標は高く。その方が、達成したときの喜びもひとしおのはずだから。  持ってきたおかずを冷蔵庫へ仕舞う。 朝食、夕食、それから千聖の弁当の分。数日分のおかずが入ったタッパーで冷蔵庫の中は一気に満員状態だ。 チルドや冷凍の惣菜も翔護の母が用意してくれていて、自由に使っていいと言われているから、足りなくて困るということもなさそう。むしろ、ちょっと多いくらいかもしれない。  放っておくとお菓子やインスタント食品ばかり食べるから見張っておいて、と言われたのを思い出して千聖はくすりと口元を緩ませた。  幼い頃も、翔護はごはんよりもお菓子ばかり食べて叱られていた。今も変わらない部分に安心する。 「おかずはチンして並べるだけで良いから、まずはお米を炊いて……お風呂も準備しちゃった方がいいよね。あ、湯船はるタイプかな。聞いてからの方がいいかも」  家庭によって、生活の仕方は様々だ。  千聖はゆっくり入浴するのが好きで、つい長風呂をしてしまう。湯をたっぷりはった湯船につかるのが至福の時だったけれど、シャワーがメインで湯船はめったに使わないという友人もいた。  千聖はお邪魔している身だし、これはもともとの家の住人に確認をしてからにしようと、ひとまず家の中の探索に乗り出した。

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