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第19話

「それから、ぼくたち別に喧嘩しているわけじゃないですからね。……ただ、あの日から避けられてるだけで……」  喧嘩っていうのは、お互いの意見が衝突し合って起こるものだ。  千聖は、翔護と衝突したいなんて少しも思っていない。 一方的に翔護が千聖を避けているだけで、千聖としてはいついかなるときでも翔護との関係の修復を願っている。 「あの日から避けられてる……ねぇ。俺はなんとなく原因がわかる気がするけどな」 「なんですか、それ。知ってるなら、教えてください」 「や~。もう少し、お前らでがんばって欲しいなぁ」  組んだ長い脚が憎たらしい。膝に頬杖をつき、にやにやと意地の悪い笑みに見上げられて、千聖は大きくため息を吐いた。 「多分俺のせいだから、これ以上俺が関わって拗れるのも良くないでしょ」 「なんですか?」 「いーや、なんでもない」  にっこりと絶対になんでもなくない笑みを返されて、千聖ははっと短く息を吐き出す。 「いつもそう言って誤魔化すんですから」  そうやっていつも思わせぶりな態度を取って、肝心なところで突き放すのだ。  わかっているのなら、教えてくれたらいいのに。  そうすれば、毎日毎日、胸が締め付けられるような思いで翔護を見つめなくて良いのだから。 「翔護の好きな人もわからないし、このままじゃ同棲期間もおわっちゃ……」 「同棲?」  うっかり口をついて出てしまった言葉。 慌てて両の手のひらで口を塞ぎ、にこと微笑む。 「なんでもないですよ?」 「ふ~ん。仲が悪いふりして同棲してんだ? お前ら」  聞こえていないことを期待して誤魔化してみたけれど、刈谷の耳にはしっかりと聞こえていたらしい。 「ち、違います。同棲じゃなくて、同居……」 「一緒に住んでんじゃん」  間髪入れずに突っ込まれて、焦りでしどろもどろになっていく。  冷や汗が、つうっと背中を滑り落ちていった。 「す、住んでますけど、これは親の都合で」  子供にはどうしようできなかったことなのだ。  チャンスだとかラッキーだとか、千聖の心の内を知られなければ、表立った理由にやましいことなんか少しもない。 「はいはい。あ~あ、心配して損しちゃったなぁ~。もう同棲までしちゃってるんだもんねぇ~。ちょっとは責任感じてたのに」  やれやれと大げさに肩を竦められ、一層にやついた笑みを浮かべられて、千聖は頬を膨らませる。  子供っぽいから普段はあまりしないように気をつけているけれど、今回ばかりは膨らまさずにはいられない。 「だから、違いますってば! てゆうか、責任ってなんのことです? ああ、もうその顔やめてくださいったら……!」  悔しさのまま両手で繰り返し刈谷の肩を叩くけれど、彼は面白そうに笑うばかりでなんの手応えもない。 「いって、悪かったってば。うまくいくように応援してるって!」  とんっと軽く背中を叩かれて、千聖は恨めしい視線のまま部室の壁時計を指さす。 「……キャプテン」 「ん?」 「開始時間、過ぎてます」 「うおっ、やば」  時計の針はとっくに朝練の開始時間を過ぎていて、刈谷は「よっこいしょ」と若者らしくないかけ声とともに立ち上がると、あまり急ぐようなそぶりもなく部室を出て行った。 「お前ら~。俺が遅刻したから、グラウンド十周な~」 「はぁ!? なんでっすか!」 「キャプテン一人で走ってくださいよ~」  グラウンドからは部員たちのブーイングの声が上がり、いつもよりも一層賑やかな中に朝練開始のホイッスルが響く。 (本当に、うまくいったらいいのに)  刈谷の応援ですべてがうまくいくのなら、毎日毎時間毎秒、休むことなく応援して欲しい。  調子の良い先輩の背中を見送りながら、千聖は困ったように小さく笑みを零し、眉を下げ

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