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第21話

「ちょっと……狙いすぎたかな」  かわいくまとまった弁当は、恋人のために作ったいかにも感が出ていて、少し不安になる。 実はご飯の部分をサッカーボール形のおにぎりにしようかとも思っていたのだけれど、そうしなくて正解だった。それこそ、いかにもな出来になっていただろう。  千聖はこのくらいカラフルなほうが見た目も良く好きだったけれど、男子高校生の弁当だ。もっと茶色く肉々しいほうが好まれたかも……と迷ってから、それは追々翔護の好みに合わせていけば良いだろうと思い直し、蓋を閉めて丁寧に包む。  男性用の弁当箱とはいえ、家で食べている量を考えると翔護には少し小さいかもしれないけれど、いつも購買部で何かを買い足しているようだし、多すぎて困らせるよりいいはずだ。  後片付けをしていると翔護がダイニングへ顔を出したので、千聖は慌ててテーブルへ朝食を並べ、茶碗に山盛りのご飯をよそった。  内藤家の朝食はご飯派らしい。  木崎家の朝はパン派だったけれど、千聖自身がどうしてもパンが良いわけでもなかったので、ここに来てからは翔護に合わせてご飯にしている。  今日の朝食は、昨日の夕食の残りの肉団子を甘辛いたれで味付けし直したミートボールにスクランブルエッグ。そこに、今朝は豆腐の味噌汁が選ばれたみたいだ。  特別話し合って決めてはいないけれど、朝食は早く起きた方がふたり分の準備をしている。大体は昨晩の残り物とか、千聖の母が持たせてくれた惣菜があるので用意自体は苦にならない。  翔護が準備をするとき、千聖の席の前には選ばずとも茄子の味噌汁がおいてある。  毎回、千聖がそればかり選ぶので、当然と言えば当然なのだが、よく見ているなぁと思う。好みを把握されているのは嬉しかったが、ちょっとだけ恥ずかしくもあった。 「飯、色が違う?」 「あ、うん。今日は少し玄米を足して炊いてみたんだ。どうかな?」  運動をするにも何をするにも、体作りは大事だ。ほんの少しのコンディションの違いで、試合の勝敗が分かれることだってある。  これは流し見をしていたテレビの健康特集から得た知識だったけれど、調べてみれば玄米は白米に比べて栄養が豊富で、混ぜて炊くだけだしとさっそく試してみたのだ。  すでに弁当には入れてしまったあとだったが、好みもあるだろう。もし翔護の口に合わなければ、夕食からは普通の白米にしようと思っていた。 「うまい。玄米って初めて食ったけど、結構好きだなこれ」 「本当? よかった」  千聖は微笑みの裏でガッツポーズをする。 「毎回だと飽きちゃうと思うから、夕飯以外はこれにしてみようか」 「ん」  こうやって、日々翔護の好きなものを知ることが出来るのは、そばにいる特権だと思う。  一緒に生活をしていれば合わないなと思うこともあるけれど、千聖にとってはひとつの合わないことより翔護の好きなものをひとつ知れることのほうが何倍も嬉しかった。  今日も朝からお茶碗三杯のご飯を平らげた翔護は、千聖の分まで食器を洗うと、さっさと身支度を済ませて玄関へ向かう。朝食の準備をしなかった方が洗い物をするというのも、特に言葉に出して決めたわけではないけれど、暗黙の了解になっている。  すぐにでも出て行ってしまいそうな翔護の背に、千聖は慌てて声を掛けた。

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