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第24話
三人の集まる机の上には、紬麦のものと思われる小さくかわいらしい弁当箱と、姫宮の持参したサンドウィッチ、それから――。
翔護の前におかれたものを見て、千聖はゆっくりと視線を戻した。
広げた自分の弁当に、黙々と口をつける。
なんど見ても、現実は変わらない。
なんど瞬きを繰り返しても、見えるものは同じだ。
一緒に机を囲んだ友人たちの声もどこか遠くに聞こえ、愛想笑いで適当な相槌を打った。
まるで、自分が人間の言葉を理解できない宇宙人にでもなった気分。
(……結構、美味しくできたと思うんだけどな)
翔護の目の前にあったのは、千聖が作った弁当ではなく、綺麗にパック詰めされたサンドウィッチだった。
購買部で毎日限定十個しか販売されない、幻とも呼ばれているカツサンド。
いつも争奪戦が繰り広げられるそれを、今日は運良くゲットできたらしい。
体はまだ緊張に強ばっていて、フォークを掴む指先からは血の気が引いていくようだった。
千聖が予想したように、あの弁当だけでは足りなかったのかもしれない。だから、買い足したのだろうと思いたかった。
そう期待を捨てず、何度も翔護を見たけれど、昼休みの間、ついに千聖の弁当が翔護の前に姿を見せることはなかった。
正直に言って、悔しいと思う。悲しいとも思う。
限定十個のカツサンドと比べられたら、そりゃあ勝ち目がないかもしれないけれど、千聖だってがんばって作ったのだ。負けたのだと思うと、悔しくてたまらない。
数だけで言うなら、千聖の弁当は世界に一つしかない分、もっとレアなんだよと今すぐに翔護に詰め寄ってしまいたい。
本音を言えば……ううん、言わなくても、翔護に食べて欲しかった。
でも、よくよく思い返してみれば、翔護は受け取りはしたけれど、それを食べるとは一言も言っていないのだ。
『作ってもいい?』という千聖の言葉に、翔護は『お前がいいなら俺は別にいいけど』と許可をくれただけ。
それを、勝手に期待して喜んだのは千聖で、ひとりよがりな想いを押しつけておいて怒るのは筋違いというものだろう。
受け取ってもらえただけいいじゃないか。これまでを思えば、それだけでも十分進歩している。
(明日は食べてもらうんだから、絶対)
線が細く全体的に色素が薄いせいもあって繊細に見られがちだけれど、実際の千聖は負けず嫌いだ。
一度それと決めたら周りが見えなくなってしまう猪突猛進型でもある。
昼休み以降、授業中も部活中も、千聖の頭の中は翔護に弁当を食べてもらうにはどうしたら良いか、そればかりで、明日への闘志で漲っていた。
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