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第37話
◇◇◇
なんで一日は二十四時間しかないのだろう。
もっと長く、四十八時間……いや、七十二時間あったら、そうセンチメンタルな気持ちになることもなかっただろうか。
(ううん、どれだけ時間があったとしても、ぼくは同じことを思っただろうな)
翔護と過ごす時間は、いくらあったって足りないのだから。
千聖の想いとは裏腹に日々は過ぎ、同棲ごっこはあっという間に最後の日を迎えていた。
明日からのふたりが『あまり仲の良くない遠い親戚』でいるかどうかは、きっと今日に懸かっている。
関係は良い方向に向かっている……と感じているのは、自分だけではないと思いたい。
結局、翔護は今日まで千聖の弁当を残さず食べてくれて、朝の憩いの時間も避けられることなく一緒に過ごした。
今なら自分を避けている理由も、好きな人のことも、のみ込まずに聞けるかも知れない。そう期待してしまうのは、間違いではないはずだ。
今日がふたりきりで過ごす最終日と知っていても、翔護はいつもと変わらなかった。
朝、家を出るときも、学校へ行ってからも、そしてまた家に帰って来てからも。
いつもと変わらず、翔護の日常を送っている。
別に、あからさまに名残惜しんで欲しいわけではない。でも、明日からはこんなに近くに千聖はいないのだ。心の内で、小指の先ほどでも寂しさを感じてくれていれば良いなと思う。
朝起きてから今まで、話をするチャンスは何度もあった。朝練のあと、夕食のとき、ふたりになる時間がまったくないわけではなかったのに。
なのに、いざ今日がラストチャンスだと思うと、変に緊張してしまってなかなか話を切り出せない。
タイミングが掴めずに焦る千聖を置き去りにしたまま刻は無情にも進んでいって、あとはもう眠るだけ。眠れば当然明日が来て、朝には夢が醒める。
「……はぁ」
背中から、ベッドにダイブする。このベッドとも今日でお別れだ。
入浴を済ませた体からは今日も翔護と同じ匂いがして、この香りをまとうのも今夜が最後だと思うと喉の奥が寂しく狭まる。
くん、と自分の腕の香りを嗅いで目を瞑り、千聖はたっぷりと深呼吸をした。
このまま聞けずに終わるかも。
でも、もしそうなったら、それはそれで良いのかも知れない。
以前に比べたら距離はぐんと近づいた気がするし、また近いうちに、どこかで恋の神様が千聖にチャンスを与えてくれるかも。今はそのタイミングではなかったというだけだ。
「――なんて」
待っているだけじゃ何も変わらなかった現実を、自分が一番知っているくせに。
そう、千聖が諦めかけたときだ。
コンコン
「……?」
部屋のドアがノックされたような気がして、千聖は身を起こした。
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