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第41話

 ◇◇◇  放課後のファミリーレストランは、客のほとんどが同じ制服を着た学生だ。  ファミリーレストランとしては少々高めの値段設定の店だったけれど、城華学園は比較的裕福な家庭の子供が多いせいか、学校近くのファーストフード店よりも、駅近のこの店を好むものの方が多いようだった。  ボックス席に座り、千聖はドリンクバーから持ってきたブルーソーダをストローで吸いあげる。  このレストランでしか見かけないこのソーダが、幼い頃の翔護のお気に入りだった。  千聖は炭酸があまり好きではなかったけれど、翔護が美味しそうにそれを飲むので、いつも真似をして飲んでいた。  シュワシュワとした刺激が鼻を抜けて行くと同時に、ふっと苦笑が漏れる。  恋の終わりを迎えても、習慣はなかなか消えるものではないらしい。  いつまでも翔護を追い続けるのは、もうやめにしなくては。 『好きなやつがいるんだ、ダメ元でも告白してみようと思ってる』 (これって……ぼくは振られたってことだよね)  翔護は、千聖が真っ白な頭で絞り出した「誰が好きなの?」という問いに答えてはくれなかった。  答えてくれなくても、その相手が千聖でないことだけは確かだろう。  二度も問いかけたのに、頑なに教えてくれなかった。  あんなにいっぱいキスしたくせに。  えっちなことだってしたくせに。  まるで恋人に向けるような熱いまなざしで千聖を見つめておいて、期待させておいて、それでも、千聖は翔護の好きな人にはなれなかった。  あれだけ良い雰囲気のなか、千聖は振られたのだ。  キスの感触、擦れ合った体の熱。それらはすぐに思い出せるほど、まだ千聖の中に甘い記憶として残っているけれど、同時に昂ぶった心と体が冷えていく様も容易に思い出せてしまうから残酷だ。 「んじゃ、グラウンドの利用時間は陸上部にも確認するとして……きーさき。お前また変顔してんぞ~」 「なっ、変顔なんてしてません!」 「おっ、今度写真に撮っとくかぁ?」  スマートフォンのカメラを向けられて、千聖は「やめてください」と手でレンズを覆って隠した。 「お前、綺麗な顔してんのにたまにすごい顔芸するよな。ずっと見てても飽きないわ」  はは、と笑われて、千聖はむっと唇を引き結ぶ。  千聖の向かいの席に座った刈谷は、足を組み緩く背もたれに寄りかかったまま、ついさっき運ばれてきたばかりのポテトを一本口へ運んだ。添えられているのがケチャップではなくトリュフ塩であるのも、チェーン店ながらファミリーレストランとしてのランクの高さを感じさせる。 「んで、その顔芸の原因は100%の確率で、内藤が原因なんだよな~アタリ?」  にや、と食べかけのポテトを突きつけられて、千聖はさらに機嫌悪く眉を顰めた。 「……行儀が悪いですよ」 「お、名探偵の名推理が当たって動揺してるな」 「ちが」  名推理も何も、毎回同じような事態に遭遇していれば、自ずと答えも見当がつくというもの。千聖にも刈谷の前では気が緩んでしまう自覚があって、推理などしなくとも答えは丸見えの状態だ。  わかっているからこそ、心配した刈谷はこうしてミーティングと称して千聖を誘ってくれたのだと思うけれど。 (お兄ちゃん、だなぁ)  彼の妹も、さぞ大事にされているのだろうと想像がつく。 「……わなくもないです」  意地をはっていたって、刈谷には全部お見通しだ。千聖は頑固な頭を解すように数回首を横に振った。

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