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第42話

 店内は陽気なBGMに加えて、客の会話やカトラリーの擦れる音で満ちている。  千聖がぽろりと本音を零したところで、気にするものは誰もいない。  慣れていて入りやすい店だったということもあるだろうけれど、あえて騒がしいところを選んでくれたのも、彼なりの優しさなのだと思う。 「今日決めなきゃいけないことは、こんくらいかな」  刈谷が、開いていたノートを閉じる。  ミーティングは本当だ。キャプテンとマネージャーで行う情報共有のためのミーティングは、週に一度行うことになっている。主に、部室で……だけれども。 「というわけで、ここからはプライベートミーティングといきましょうか。あ、ちょっと待てよ。飲みもん取ってくるから」  いつも通りの、飾らない刈谷の態度がありがたい。体の力を抜くように、千聖は頷きと同時にふっと肩を落とす。千聖の前には、炭酸の抜けたブルーソーダがまだ半分以上残っている。  翔護への恋に終わりのホイッスルが鳴ってからも、千聖はできるだけ変わらない日常を過ごすことに努めた。  翔護の前で落ち込んでいる姿は見せたくない。  彼は振った相手のことなんて気にしないかもしれないし、そもそも千聖のことを振っただなんて思ってもいないだろうけれど、千聖自身が嫌だった。せめて、なんでもない風を装う強がりくらいは許して欲しい。  幸い、翔護と千聖は目に見えて仲が良かったわけではないから、周囲が何かに気がついて詮索してくるようなことはなかった。  それが寂しくないわけじゃないけれど、良かったとも思えない。  何も言われないということはうまく日常に溶け込めている証だろうと思っていたのに、唯一、刈谷だけは千聖の空元気に気付いてしまったようで。千聖の異変を察知した聡い彼は、こうしてミーティングを口実に相談に乗ってくれるようだ。  半分以上、いや、9割方面白がっていそうだけれど。  前に同棲ごっこのことはぽろっとこぼしてしまったし、それから何度か話を聞かせろと小突かれていたのだけれど、三週間のうちは翔護との時間を優先したくて、理由をつけてのらりくらりと躱していた。  ミーティングと名前をつけられては断るわけにもいかなかったし、なにより今回は千聖自身が誰かに話を聞いて欲しいという気持ちもあった。 (キスとかのことは、隠して……それ以外をうまく話したら良いよね)  ――と思っていたのに。 「へぇ。んで、ちゅうされてちんこ押し付け合って、その気になったのに振られたと」 「ううっ……」  そんな誤魔化しは刈谷には通用せず、うまく会話を誘導されて洗いざらい吐かされてしまった。

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