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第43話

「は~、内藤も案外やるな~」  思ったよりやり手か? と刈谷は顎に手を添えてうんうんと一人頷いている。  思春期だし、その場の雰囲気に流されて盛り上がってしまっただけなんだろう。  思い出すとやっぱり胸がチクチクするけれど、それでも刈谷に話したことで少し気持ちが楽になったような気がした。 「まぁでも、振られたっていうのは早合点しすぎなんじゃね? それに、あいつもただ流されたってだけじゃないと思うぜ」 「どういうことですか?」 「多少は性欲に負けた部分もあると思うけど、積み重なったもんが爆発したっつうか、我慢してたもんがちょーっと揺らいじゃったっつうか。据え膳前にしちゃ、あいつも男だったってわけだな」  うんうん、と刈谷はまた一人わかった顔で頷いているけれど、千聖はまったく理解が出来ず顔を顰めたまま首を捻るしかない。 「とにかく。聞いてると、お前たち会話が足りなすぎるんだよ。幼なじみで昔からなんでも知ってて……っていうのがあるんだろうけどさ。たとえ家族だって、自分以外のやつがなに考えてるかなんてわかんないだろ」  それはそうだ。何もしないで他人の心が全部わかったら会話なんて必要ないし、そもそも言葉も声もいらなくなる。面と向かって話をしなくたって、知りたいと思えばすぐに知れる環境だったら、わざわざ相手の様子を窺いながら不安に口を開かなくたっていいけれど、人生が一気に面白くなくなる気がした。 「でも……」 「怖いか?」  返事の代わりに、千聖はソーダの中に浮いた小さな氷の欠片をストローの先で突いた。 「気持ちはわかる。俺だってビビるときあるもん。でも、やっぱりコミュニケーションは大事! サッカーだって同じだろ。俺たちのチームはさ、しつこいくらいミーティングをして話し合って、チームメイトが何を思って感じてるのか理解しようと努めてる。それが、今の俺たちの強さの秘訣だと思ってるんだよね」  刈谷の言うとおり、城華学園サッカー部は他校に比べてミーティングの機会が多いけれど、その分メンバー同士の仲が良くチーム力が高いのが特徴だった。  ただ仲が良いだけではなく、ときには意見の衝突もあるけれど、それもみんなが同じ目標に向かって進んでいて、チームメイトを信頼しているから起こる絆の証だ。 「思い切って告白してみろよ」 「でも」 「木崎が聞いたのは、内藤の好きなやつだろ。あ。誰だかは聞けてないんだっけ。でも、お前の気持ちを伝えたわけじゃないじゃん」 「あ……」  そうだ。千聖は翔護のことを知りたいばっかりで、自分の気持ちを彼に打ち明けようなんて少しも考えていなかった。  教えて欲しいばっかりで、自分が心の内を明かさないのはフェアじゃない。  でも……。

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