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第45話

(ぼくに用事じゃなかったかな)  でも、翔護が立っているのはどう見ても千聖の家の前で、自分の家を間違えようもない。 (母さんに用事だった?)  だったら、わざわざこんな暗いところで待っていなくても、インターフォンを押せばすぐに用件は済んだはず。  偶然通りかかった……というわけでもないと思う。  母親同士の仲の良さから、内藤家は引っ越してくるときに互いの家を行き来しやすい距離に家を買っていた。  でも、すぐ隣りとか、同じ通りの並びとか、そういうレベルで近くはなかったし、通学路の途中に互いの家があるわけでもない。  互いの家に行く、という明確な理由がなければ、用もないのに道でばったり出会うということはないのだ。 「なにか用事があった?」  不思議に思うまま問いかけるけれど、翔護は小さく「いや……」と歯切れの悪い返事をするだけで、千聖は首を傾げる。  学園関係のことなら、千聖でなくても紬麦に聞けば解決するだろう。  部活のことだって、あえて千聖に聞こうとしなくても気軽に確認できるチームメイトがいるはずだ。 (家のこと? さゆみさんに何か頼まれたとか……)  でも、それこそ前述したとおり翔護なら母に直接話が出来るだろうし、何よりわざわざ千聖たち子供を介さなくても親同士でどうにかするはずだ。  千聖はますます首を傾げる。 「……キャプテンと一緒だったのか」 「う、うん?」 (あれ……)  なんで知ってるんだろう。  翔護は千聖よりも先に部室を出て帰ったはず。その背中を、千聖は今日もドアが閉まるまで名残惜しく見つめていたのだから。  千聖が部室を出るのは、いつも後ろから数えた方が早い。それに加え、今日は刈谷との予定があったから、彼と一緒にいちばん最後に部室を出た。  部室の施錠をして、所定の位置に鍵を戻したときにも、部室棟の近くには誰もいなかったから、自分たちが一緒にいるところは誰にも見られていないはずなのに。  なんで刈谷と一緒だとわかったんだろうか、と、不思議な気持ちのまま千聖はじっと翔護を見つめ返した。 「あー……何してたんだよ」 (なに、とは)  翔護が千聖のことを気にするなんて珍しい。  関係がギクシャクしてから、そんなことを聞かれることもなくなっていた。 (そういえば……) 『ちぃ、俺に会えない間なにしてた?』  幼い頃はよく聞かれていたなと思い出す。  学校でのこと、家族で過ごした休日のこと。  あれこれと指折り数えて答えれば、翔護はサッカーボールを小脇に抱えたまま、うんうんと相槌を打って聞いてくれた。  なかでも、翔護のことを待ってたよ。と答えれば、その言葉を待っていたかのように一番の笑みを見せてくれるのが嬉しくて、千聖はもったいぶっていつも最後にそう言っていた。 (でも、今求められている答えは、さすがにこれじゃないよね)  わからない。なんだろう。  さっきから、千聖の首は右に左に揺れてばかりだ。  翔護の知りたい『なに』の答え。  刈谷と一緒にいたことはどうしてか知られているから、それを誤魔化すのは難しいだろう。  かといって、まさか翔護との関係に悩み相談していたなんて本人には言えない。  千聖は迷いつつも口を開いた。

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