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第46話

「み、ミーティング、だよ?」  動揺が、はじめの音を外させる。  でも、ミーティングをしていたのは本当で、今回の目的がミーティングだったのも本当で、刈谷と一緒にいた時間の半分以上が翔護に関係する話だったとしても、それはあくまでミーティングに付属した雑談の一部でしかない。おまけだ。まるきり嘘をついているわけではない。  一瞬、翔護の纏う空気がひやりと冷たくなり、眼光が鋭くなった気がするが、あれと思っているうちにすぐに元に戻る。 (気のせい、かな……)  街灯が一瞬ちらついたせいかもしれない。逆光になった翔護の表情は千聖からはよく見えなかったけれど、一時のような拒絶するオーラは感じられなくて安心した。 「……」 「……」  向かい合ったまま、無言で刻が過ぎていく。  じっと翔護に見つめられて、千聖は首筋を汗が伝い落ちるのを感じた。  何か話した方がいいだろうかと考えるのに、緊張した頭ではろくな話題も思いつかず、ローファーの中でもぞりと足の親指を擦り動かす。 「わ……っ」  すっと翔護の手が伸びてきて、千聖は反射的に目を瞑った。  そわそわと幾度か頬を撫でた指先が、口元のほくろに触れる。 「んっ……」  翔護は、何も言わない。無言で、ただ千聖のほくろを撫でる。  二人の間に相変わらず会話はなく、裏の通りを過ぎるバイクの音、角を曲がった家の大型犬の鳴き声が遠くの方で聞こえるだけだ。  急にどうしたの?  触れてくれるなんて嬉しい。  感情が混ざり合って消化できず、切なく眉が真ん中に寄る。  見つめ合い、困惑しながら、千聖はただ翔護に身を任せるだけだった。  隣家の玄関ドアが開くガチャリという音に、ふたりしてびくりと肩を震わせる。  出てきた婦人と会釈を交わして、またふたりの間には沈黙が訪れた。 「しょうご……?」  翔護の指は、まだ千聖の頬に触れている。  ぼんやりと夢見心地のまま名前を呼べば、彼は一瞬だけ昔のような優しい笑みを千聖に向けて、それから我に返ったように表情を引き締めると手を離した。 「なんでもない、帰るわ」 「え、しょ……っ」  言うや否や、翔護はすぐに千聖の横を通り過ぎて行ってしまう。 「……なんだったんだろう?」  振り返り見た翔護の背中は、もうすでに小さくなっていた。  いくら首を捻っても、翔護が千聖にわざわざ会いに来る理由が思い浮かばない。  戸惑いながらも、隠しきれない喜びが顔を覗かせて口元が緩んだ。 「……ふふ」  触れられたほくろを撫でる。  翔護の少しかさついた指の感触が、まだそこにあるみたいだった。

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