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第63話
◇◇◇
「姫宮から、連絡が入ってたんだよ」
部活の休憩時間、スマートフォンに届いていた姫宮からのメッセージを見て、翔護は今回の事の顛末を知った。
すぐに、それが、千聖が部活に来ていないことと関係していると察した彼は、理由をつけて千聖を捜してくれていたのだという。
なによりもサッカー最優先の翔護が、部活を抜け出してまで心配してくれた事実を知れば、申し訳ないと思うと同時に嬉しくて堪らない気持ちになる。
紬麦の件も大事に至ることはなく、軽い捻挫だけで、三日も大人しくしていればすぐに良くなるだろうと教えてもらった。
翔護伝いに大丈夫とは聞いていたけれど、心配なものは心配で。紬麦本人の元気な顔を見てようやく肩の力が抜けたところだ。
あれから、紬麦とは顔を合わせれば言葉を交わす仲になって、きっかけは良いものではなかったけれど、繋がりが出来たのは純粋に嬉しい。
目が合うと、意味深にぐっと親指を立てて頷かれるのがよくわからなかったが、あえて問いただすことでもないので、いつも微笑みで返している。
余裕がなかったとはいえ、冷静になって考えてみると、とんでもないことを聞いてしまったと思う。
個人の名前を出して、それも、その人の想い人を知っているか聞くなんて、遠回しに自分がその人物を好きだと告白しているようなものだ。どんなに鈍くても、少しくらい感じる部分があるだろう。
思い返すたびに、何とも言い難い羞恥の波が千聖を襲う。
けれど、千聖の心配をよそに紬麦が翔護にそれを伝えたような素振りはなく、これを境にまた翔護との距離が開くようなこともなかった。
千聖が自分のことが好きなのだと知ったら、千聖を避けている翔護からは、さらに距離を置かれてしまうだろうから。
これ以上、突き放されたら、きっと千聖は立ち直れない。
そう深刻に思うくらいだったのに、実際はそんな事態に陥ることもなく、むしろ、翔護の機嫌は日に日に良くなっていくようだった。
(どうして?)
また繰り返される疑問。
嬉しいはずの翔護の態度が、千聖の胸にわだかまるもやもやをさらに増幅させていく。
刈谷の協力もあって、編入時の誤解はきちんと解くことが出来たと思うけれど……。
(あれ。そういえば、どうして翔護は、ぼくとキャプテンが付き合ってると思って、帰ってしまったんだろう?)
結果的にそれは勘違いだったのだけれど、仮に千聖と刈谷が恋人だったとして、翔護には何の関係もないはずだ。見学をボイコットして帰ってしまうほど、強い影響を与えるとは思えない。
翔護が千聖を避け始めた理由は絶対に他にあるはずで、それが何なのかわからないまま、うやむやに開いていた距離が縮まっていくのは、正直に言ってすっきりしない。
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