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第64話

「本当に、キャプテンとは付き合ってないんだよな?」  あの日から、翔護はことあるごとに聞いてくる。 「そうだってば。もう、それ朝も聞いたよ?」  恋人ではないと、何度言えばわかるのか。  しつこい問いに、千聖もいい加減うんざりしてくる。翔護に話しかけられるのが嫌というわけではなくて(それはむしろ嬉しい)、何度答えても同じことを聞いてくる、その信頼してもらえていない感じが嫌なのだ。  千聖の答えを聞くたびに翔護は「ふーん」と相槌を打って、相槌の適当さとは裏腹に満足そうな笑みを浮かべるのだってよくわからない。一向に解消されることのないもやもやが、ずっと心の中にある。  こんなに機嫌が良いのは、告白が成功してしまったからなんじゃないか。  また、疑問が頭をもたげる。 「つむちゃん、大好きだよ」 「ば、バカー! ここ教室だぞ!」  カッカッと顔を真っ赤にした紬麦の声が、教室内に響き渡っている。  姫宮と紬麦の仲睦まじいやり取りを見ていると、二人の関係が羨ましく余計に焦燥感に駆られてしまう。  姫宮はずっと昔から紬麦を好いていて、念願叶って想いが通じ合ったと聞いた。 (うらやましい……)  ずっと相手のことを想っていても、二人のようにうまくいくとは限らない。  好きな人が同じように自分を好きになってくれるなんて、両想いになれるなんて、奇跡みたいなものだと千聖は思っている。  姫宮のように、ためらうことなく素直に好意を口に出していれば違ったのか。  刈谷が言ったみたいに、コソコソ相手の好きな人を探ろうとしないで、一歩引かずに真正面から自分の気持ちをぶつけていれば、状況は変わっていただろうか。  あの日見た、告白の場面が脳裏に浮かぶ。 『わるい。俺、好きなやついるんだ』  翔護の言葉を思い出すと、今でも胸がきゅっと締め付けられる。  同じ言葉を、自分も返されるかもしれない。  でも――翔護の好きな人が誰であっても、告白の結果がどうであっても、千聖が翔護を想う気持ちは変わらない。  結局は、そこに辿り着く。  どんなに苦しくてつらいと思っても、千聖が翔護を好きなことに変わりはないのだ。 「ぼくが一番、翔護が好き」  誰よりも、一番好きだって自信がある。  だから――。  自分を鼓舞するように、千聖はぐっと丸めた拳で自身の胸をひとつ叩いた。

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