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第65話
◇◇◇
長く感じるはず、と半ば諦めにも似た気持ちを抱いていた二度目の同棲ごっこは、千聖の期待を裏切り、あっという間に過ぎて残すところあと一日になっていた。
前回よりも短い期間だったけれど、より濃い一週間だった気がする。
次のチャンスがいつ訪れるかは、千聖にも誰にもわからないことだ。今回みたいにすぐにやって来るかもしれないし、もう一生ないことだってある。
翔護を好きな気持ちに変わりはない。翔護の想い人が千聖じゃなくても、千聖は翔護が好きだ。
それは、この七日間の中で千聖が自分自身に問いかけ、何度も繰り返し確認してきたことでもある。
この先も、きっと千聖は翔護を好きなままだろう。そう自覚しても、変わらない気持ちを以前のように悲観することはなくなっていた。
思えば、告白現場に居合わせて翔護に想い人がいると知ってから、千聖は自分のことばかり考えていた。
誰が誰を好きでも良いと思う。千聖が想い人のいる翔護を好きになるのだって、悪いことだとは思わない。
でも、逆の立場だったらどうだろう。千聖が、もしも、万が一、翔護以外の人のことが好きだったら。
その相手に告白をしようとまで思っているのに、ただの幼馴染としか思っていなかった翔護に、好きだと打ち明けられてしまったら……。
彼のことを幼馴染として大切に思っていても、応えられない想いを少しばかり迷惑に感じてしまうかもしれない。
そんな単純なことにも気付けないなんて、自分自身がつくづく嫌になる。
それに、もし翔護の告白が成功しているとしたら、千聖とふたりきりでいるこの状況は、相手のためにも良くないと思う。
残り一日になって何を今さらと思うけれど、気付いてしまって知らんふりをするわけにもいかない。心の負担が大きすぎる。
どうしよう、と、いつまでも同じ場所で足踏みをしていたって状況は変わらないから。
自分が新たな一歩を踏み出すためにも、千聖は今日こそ翔護に彼の好きな人を聞こうと決めていた。
翔護への想いを告白は……しない。
アドバイスをくれた刈谷には申し訳ないけれど、自分の想いが迷惑になる可能性を知って、それでも告白できるほど、千聖はわがままにはなれなかった。
――けれど、そう気合いを入れた日ほどうまく噛み合わないもので。
話しかけようとするたびに邪魔が入ったり、わずかの差ですれ違ったり。そうこうしているうちに部活も終わって、ふたりが並んで歩くのは夕暮れの帰り道だ。ここまでくると、零れる笑みには苦さしか浮かばない。
すっかりタイミングを逸した千聖は、ただ黙って翔護の隣を歩いていた。
翔護に話したいことはたくさんある。
いつもなら、その中から何かしらの話題を取り出して途切れることなく話しかけるけれど、今日はそんな気力もなく、肩にかけたスポーツバッグのショルダーベルトを指の先でいじるだけ。
学園経由の学割で新しいサッカーボールを手に入れた翔護は、指先で器用にボールを操りながら、同じように黙って帰路を歩いている。
「……」
今が、きっと翔護に聞くためのラストチャンスだ。
さっさと聞いてしまえばいいのに、これを逃したらもう後がないというプレッシャーが、千聖の口を重くする。
本当は聞きたくない。
聞いてしまえば、曖昧だったものに白か黒かの色がついてしまうから。
でも、今日こそは絶対に聞くと決めたのだ。
もう後ろは振り返らない。過去は懐かしまない。
前だけを向いて、千聖はスーハーと深呼吸を繰り返す。
(大丈夫、聞ける。大丈夫……)
ぎゅっと胸の前で握った手には、おそろしいほど汗を掻いていた。
よっ、と軽い掛け声とともに翔護が手にしたサッカーボールを頭上に投げて、それが彼の手にキャッチされるのを目で追ってから、千聖は翔護に向かって大きく口を開いた。
「翔護……!」
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