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☆第68話

 ◇◇◇ 「別に、焦ってする必要もなくねぇ?」  しばらくの間言葉もなく抱き締め合って、帰宅したのはオレンジがすっかり夜に包まれてからだった。  いつも通りに夕食を終え、風呂に入り、いつもと違うのは、翔護が日課の自主練をしていないことくらい。  翔護の部屋。ふたりはベッドの上で向かい合っていた。 「だって、明日で一緒にいられるの終わりなんだよ?」 「母さんのことだから、どうせまたすぐ父さんのとこ行くよ」  なんだかんだ言って、結局は一緒にいたんだからさ。なんて、翔護は余裕の表情だ。  ずっと燻ぶらせてきた想いがやっと実を結んだのに、千聖はそんなに大人ではいられない。  今すぐにでも翔護の熱を感じて、これが夢ではなく現実なのだと実感したいのに、翔護はそうではないのだろうか。  両想いになったのに、ふたりの間にはまだ隔たりがあるようで不安になる。 「翔護は次まで待てるの? ぼくは嫌……全然待てない。今すぐ翔護とくっつきたいもん……翔護はしたくない?」  よくよく考えなくても、付き合った初日にセックスを強請るなんて、はしたないことだと思う。  でも、それでも、お互いに実家暮らしの高校生は、おいそれとはふたりきりになれない。事情的に木崎家よりも内藤家の方がチャンスが多いとしても、近いうちに絶対にふたりきりになれるなんて明確な保証はないのだ。  それが、一年も二年もあとのことだったら?  千聖は翔護不足できっと干からびてしまう。 「……んなわけねぇだろ」  したい。と額をコツンとぶつけられて、千聖は瞬いた。 「我慢してるんだっつの」 「どうして?」  我慢なんてする必要ないのに。  首を傾げる千聖に、翔護はハァッと大きくため息を吐く。 「あのなぁ……お前にかかる負担のがデカいんだぞ。そんなガツガツいけるかよ」  首に手を当てて唸るようにそう言う翔護の耳は真っ赤だ。  翔護が自分を大切にしてくれているのが嬉しい。  でも、だからといって大事に箱の中へ仕舞ったままにされるのは嫌だ。 「ぼくは……ガツガツしてほしいな?」  翔護の腿に手を置いて、かぷと赤くなった耳へ齧り付く。 「~~――……ッ! ちぃ!」 「きゃあっ」  勢いよく押し倒されて、ごろんと世界がひっくり返った。  噛みつくようなキスで強引に唇を奪われたのに、どこかほっとした心地になる自分は、この状況に少し酔っているのかもしれない。 「ん……っ」  翔護の口は千聖よりも大きい。ぱくりとかぶり付かれると、本当にそのまま食べられてしまいそうだ。  唇をまるごと食まれて、今度は上唇と下唇を交互に歯の間に挟まれる。期待にすぐに口を開けば、入って来た厚い舌が、敏感な上顎をぞりぞりと擦った。 「はぁ……っ、ぁ」  ちゅぷ、くちゅ、と互いの唾液が絡まり合って音がする。  自ら舌を差し出せば、翔護は合わせた舌でやさしく擦ってくれて、瞳の裏側からぞくぞくとした快感が首の後ろを抜けていった。

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