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☆第69話

 押し倒されていてよかった。そうでなければ、今頃、腰が抜けてへたりこんでいただろう。  もっといっぱいくっつきたい。  首に回した手で、もっともっと、と翔護を引き寄せた。  服を脱ぎ、生まれたままの姿で抱き締め合えば、ふたりの間で互いの熱が窮屈に擦れ合い、じわじわと体を昂らせていく。  すりすりと身を寄せ合いながら、翔護の舌が唇の端を何度も舐めているのに気づいて、千聖はふっと息を零した。 「っ、ふふ」 「……なんだよ」 「ほくろ、気になるのかなぁって」  翔護が触れているのは、ちょうどほくろのある位置だ。  その場所を愛される感触には覚えがあって、千聖はくすくすと昔を懐かしむ。 「翔護、覚えてる?」 「なにを?」 「小さいとき、ぼくの口のほくろを見て『ちぃ、ゴミついてる』って言ったでしょう? それからしばらく気にして、ずっとぼくのほくろを指でいじってた」  カリカリ、と小さな指の先で引っ掻かれた感触が、蘇ってくるようだった。 「……忘れた」  言いながら、翔護はなおも執拗にほくろばかりを舐めてくる。舐めて、吸われて、齧られて。取れちゃうかもって、不安になるくらい。 「くすぐったいよ……ンッ」  だんだんとずれていった唇に首筋を吸われて、ぴく、と肩が震える。  ちゅ、ちゅ、と翔護の唇が肌に触れるたび、言いようもない幸せが全身を包む。 「は……っ、あ……いっぱいキスしてくれるの、うれしい」  嬉しくて、ずっとこうしていて欲しいくらい。 「よく見ると、体にもほくろいっぱいあんのな」  場所を教えるように、ちゅっと音をたてながら翔護の唇が移動していく。 「首の後ろ」 「んっ」 「鎖骨」 「っ、あ」 「胸」 「ふっ、ぅ」 「二の腕、脇腹に、へそんとこにもある」  ほくろをキスで辿られて、それだけで千聖の体はくたくただ。 「ンぅッ……ん」  はぁはぁと息の上がったまま、翔護の手を自分の頬へ添える。 「ね……」 「ん?」 「ほくろってね、前世で恋人がいっぱいキスしてくれたところに出来るんだって。翔護が、いっぱいキスしてくれたからだね」  ふにゃと微笑めば、翔護は面食らったように目を瞬かせて、それからくしゃりと破顔した。 「ふはっ、前世でも俺が恋人前提かよ」 「翔護以外、いないもん」  前世も今も来世だって、千聖の恋人は翔護だけ。 「あーっそ」  そっけない返事も、照れ隠しなんだってもう知っている。  ちゅっと軽く唇を押し付けられて、千聖は満ち足りた笑みを浮かべた。 「じゃあ、来世の俺のために、今の俺もいっぱいキスしとかないとだな」 「ふふ、来世も一緒にいてくれてありがとう」 「どういたしまして……って、お礼早すぎだろ」  ちゅう、と今度は千聖からキスをする。

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