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「あの……昨日のことは先生に報告したんですか?」
昨夜から気にかかっていたことを問えば、舜は首を左右に振った。
「いつもここで食べてるのか?」
「……天気がいいときは」
一口が大きい彼は三つ目のベーグルサンドを手にしていた。まだ一つ目を食べきっていない鳴海は、どうにも落ち着かずに俯いた。
「御堂先輩って中庭でお昼食べるんだ」
「明日も来るかな」
近くのベンチに座る女子生徒の会話が聞こえてきた。他の生徒も彼に注目している。屋上で群れていた上級生が言った通り、この学園では名の知れたアルファらしい。
(そういえば、昨日、この人にクラスまで教えたか?)
「鳴海みたいな人間はレアだと思ったんだ」
鳴海はギクリとした。特異なオメガ性であることを勘付かれたのかと、瞬間的に身構えた。
「俺みたいな奴を助けようとするなんて、変わってる」
予想と違う台詞が返ってきて、猫ならば逆立っていた毛が凪ぐように、一気に強まった緊張感は和らいだ。
「……あんな場面に遭遇したら、みんな同じことをすると思います」
鋭い眼差しに不敵な笑みという挑発的なセットに居心地の悪さは変わらず、早く離れようと、鳴海はベーグルサンドを口の中にぎゅうぎゅう詰め込む。
「う」
おかげで噎せた。
咳き込んでいたら背中をさすられて、息苦しさで涙の張った切れ長な目は大きく見開かれた。
「ッ……そんなこと、しなくていいです」
「咳してる途中で無理して喋るな。落ち着いてからでいい」
鳴海の咳が治まるまで、舜は意外なくらい優しい手つきで丸まった背中をさすっていた。
「鳴海はせっかちなんだな」
昨日会ったばかりで平然と呼び捨てにしてくる上級生に、下級生は何も言えず、ため息を押し殺す。
「水は? 飲むか?」
丁重に断ってカフェオレを飲み干し、立ち上がった。舜の顔も見ずに「ベーグル、ご馳走様でした」と告げると、日陰のベンチから急いで離れた。
「――久世君、御堂先輩が探してたよ」
教室に戻った鳴海は、どうして舜がクラス名まで知っていたのか、同級生に話しかけられて合点がいった。
「このクラスだって教えてあげたけど」
「先輩と知り合いなの?」
ほぼ初対面だと卒直に答えれば、ベータ性で内部生のクラスメートは舜について積極的に教えてくれた。学園で一番人気の生徒。秀でたルックスはもちろん、頭もよく、自宅は高級マンションの最上階だとか。
「去年はかなり欠席が多かったらしくて、高三で留年したんだよね」
「噂ではラットになったんじゃないかって」
舜の話題にあまり乗り気でなかった鳴海は、教室にいるアルファを気にして小声で言い交わされたゴシップに顔を曇らせる。
(あの人、抑制剤が効かない体質のアルファなのか)
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