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近年、中学入学時から義務付けられるようになった抑制剤の定期接種。その効果が発揮されず、発情期になって興奮の余り理性を失い、暴走したアルファにオメガが襲われるケースがある。
オメガが発情期になると性フェロモンが放出される。そばにいたアルファを、時に自分の意志とは関係なしに誘惑し、過度な興奮の巻き添えにしてしまう。
よってラットやヒートになった場合、自宅安静を余儀なくされる。日常生活に支障を来たすのは免れない。興奮のレベルや期間は人それぞれで、頻発したり長引いたりすると本人の意欲が低下し、元の生活への復帰が困難になる事例もあった。
「ああ、来たな」
翌日の昼休み、定位置にしている中庭のベンチに座る舜を見、鳴海は慌てて回れ右しようとした。
「一緒に食べよう、鳴海」
軽快な身のこなしでやってきた彼に誘われる。見つかる前に退散したかった鳴海は、断りきれず、気が乗らない上級生同席ランチを了承する羽目になった。
「いつもはカフェテラスで食べるんだが、外で食べるのもいいな」
ベンチに下級生をエスコートした後、舜は店名が印刷された紙袋からフィッシュサンドを取り出し、かぶりついた。彼の隣で鳴海も渋々食事を始める。
「卵サンドとカフェオレの組み合わせ、そんなに好きなのか」
昨日と同じラインナップに上級生は目敏く気がついた。
「好きというか、選ぶのも面倒なので、決めてるというか」
「ふぅん。選択することは有意義で貴重な時間だと思うが」
舜がミネラルウォーターのペットボトルを傾ける。昨日よりも増えている中庭のギャラリーが何ということはない仕草に注目していて、やはり落ち着かない。
ランチを早めに切り上げたい鳴海は、無謀な早食いに再び及ぼうとした。
「また噎せるぞ」
やんわり注意された。これで噎せたら昨日と同様に背中をさすられるかもしれない。過剰に構われたくない鳴海は、言われた通り、不慣れな行為を慎んだ。
「鳴海、中学はどこだったんだ?」
「自宅から近いところです」
「自宅はどの辺にある?」
「ここからバスで通える範囲内です」
「どれも正式名称を避けてる。俺のことを警戒してるのか」
フィッシュサンドを見る間に平らげた舜は、一つ目の卵サンドを齧っている鳴海に唇を吊り上げてみせた。
「そんなにわかりやすく警戒しなくていい。単なる好奇心だから」
他愛ない質問をぽんぽん投げかけてくる舜に、鳴海は辟易してしまう。一昨日までの静謐な昼休みをこっそり懐かしんだ。
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