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 舜は中庭を時折訪れては日陰のベンチで鳴海と昼休みを過ごすようになった。 「今日はグラタン・パイと交換しよう。冷めても旨いんだ」  慣れ親しんでいるコンビニの卵サンドと、自宅近所のベーカリーで購入しているという手の込んだパンの交換に、鳴海は一抹の罪悪感を覚えていた。 「コンビニで買ってきたらどうですか、サンドイッチ」 「そんなに寄り道していたら遅刻する」  気乗りしないランチ。それならば中庭へ行かずに教室で済ませればいいのだが……。 『今日は中庭じゃないのか』  一度、教室に引きこもっていたら舜がわざわざ自分の席まで出向き、クラスメートが驚愕している中、そこで一緒に昼食をとる羽目になった。 (中庭よりも散々だった)  それからというもの、懲りた鳴海は晴天の日には必ず中庭へ足を運ぶようにした。舜が来ないときは穏やかな五十分を噛み締め、来たときは胸の奥で苦々しさを噛み潰した。 (雨が降ればいいのに)  でも、そうなるとまた教室に来るかもしれない。カフェテリアは混んでいるし、図書館は飲食禁止だし、困ったな……。 「鳴海君は部活とか入らないんだ? 文化部でも映画部とか演芸部とか、色んなジャンルがあるよ?」  昨日から舜は一人の同級生を連れてくるようになった。名前は澤恭太郎(さわきょうたろう)と言い、人当たりがよくて話しやすいベータ性の男子生徒だった。 「まぁ、俺も舜君も帰宅部なんだけど」  実際、舜は留年している。一歳違いの二人は幼馴染みだという。恭太郎は中学から凛聖に通っており、小学校の集団登校をきっかけにして親しくなったそうだ。 「学校にはもう慣れた? わからないことがあったら、何でも聞いていいから」 「ありがとうございます、澤さん」  これまで生粋の帰宅部で上下関係に疎い鳴海は、先輩と呼ぶのに慣れず、二人の上級生を「さん付け」で呼んでいた。 「ドーナツ食べるだろ」 「あの、御堂さん、昨日もらったので今日は……」 「恭太郎にはクッキーだ」  舜は真ん中に座る鳴海越しに恭太郎にクッキーを渡した。三人いると前よりも距離が狭まり、下級生にとっては益々落ち着かない状況になっていた。 (澤さんが真ん中に座ったらいいのに……)

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