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3-1-遠足

 四月末、清々しい快晴となった金曜日、凛聖中学校・高等学校の歓迎遠足は実施された。  中学部と高等部の目的地は別々であり、貸切バスで一時間近くかけて郊外まで各自移動した。高等部の行き先は森林に囲まれた自然公園だった。バンガローが並ぶキャンプ場、フィールドアスレチックやハーブ園といった様々なエリアに分かれ、中心には立派な吊り橋のかかる人工湖もあった。  芝生広場で催されたレクリエーションは滞りなく進行し、予定通り、正午丁度に自由時間に入った。 「舜君、私達と回らない?」 「吊り橋で一緒に写真撮りたいの」  一際目立つ集団がいた。今日は私服可であり、センスのいいスポーツファッションに身を包んだ三年生の女子グループだ。  アルファだと一目でわかる煌びやかな輪の中心には舜がいた。  いつものモッズコートにシンプルなトレーナー、ジョガーパンツ、レザースニーカーを履いた彼は、華がある同級生を伴って移動を始めた。  学園指定のジャージにリュックを背負った鳴海は、遠目にした光景に図らずも気をとられていた。 (真夜中の月みたいだ)  白昼において、ぼんやりとそんなことを思う。次に静かな場所を探そうと、学年が入り乱れる芝生広場をぐるりと見渡した。 「誰か吊り橋に行って御堂先輩のこと突き落としてきてくれる?」  ある男子グループが鳴海の目に留まった。ハイブランドのスポーツウェアに、それなりに秀でた容姿、一見して素行不良者には見えないアルファの群れ。尤も、物騒な冗談をネタにして笑い合う姿は、見ていてあまり気分のいいものではなかった。 (屋上にいた人達だ)  舜を取り囲んでいたメンバーとの招かれざる再会に、鳴海はたじろぐ。チャペルで開かれる朝の礼拝や校内の移動では、舜との遭遇を気にするばかりで、彼等にまで意識が回らなかった。久し振りにその存在を思い出したと言ってもよかった。  群れの一人と目が合った。ナイフを持っていたアルファだ。両隣にいた上級生も鳴海に視線を投げつけ、皆で近づいてこようとする。 「鳴海、一緒に回るか」  彼等が到着するよりも先に、鳴海の元へ、彼が駆けつけた。 「……御堂さん……?」  同級生の女子グループと行動を共にしていたはずの舜が現れて、鳴海は呆気にとられる。 「今日は私服じゃないんだな」 「ッ……選ぶのが、面倒だったので」 「またそれか。今度、休みの日にどこか遊びにでもいくか?」 「土日は家で勉強を……あ」  顔を向ければ(くだん)のグループは他の生徒に紛れて消えていた。

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