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「鳴海も気に入らない連中には喧嘩を売るんだな」  鳴海は耳を疑う。できるだけ背中を垂直に伸ばし、横に立つ舜と向かい合った。 「喧嘩なんか売ってません」 「アイツ等は狡猾だ。似たり寄ったりな個体で常に群れて、全体像を大きく見せて、周りを威圧する」 「……売ってません、喧嘩なんか」  心外だとでも言いたげな鳴海に、舜はふっと笑みを零す。無言で下級生に手を伸ばすと、風に乱れる癖のない前髪を軽く梳いた。 「クラスメートの人達と回るんじゃなかったんですか?」  すかさず一歩退いた鳴海の問いに「定員オーバー並みの吊り橋を渡るよりも、ゆっくりランチがしたかった」と、答えてみせた。 「舜君、間に合ってよかった……!」  舜よりも遅れて恭太郎が駆け寄ってくると、強張っていた鳴海の表情はわかりやすく解れた。 「鳴海君、大丈夫だった? 丹羽(にわ)達に絡まれてただろ?」 「さっきの上級生グループのことですか? この人が先に来たので、あの人達とは話してません」  キャップをかぶった私服姿の恭太郎は胸を撫で下ろす。笑うと笑窪ができて愛嬌のある、鳴海よりもやや身長が高い彼は意気揚々と提案した。 「とりあえず、お昼ごはんにしよう。いい場所があるよ」  遊歩道を進んで恭太郎が案内してくれた先は湖の畔だった。  水辺を縁取る木立ちの向こうに、写真撮影で混み合う吊り橋が垣間見える。人の行き来が少なく、鳥の囀りが澄んだ静寂を際立たせていた。 「丹羽のグループは全員が幼稚園からの内部生で、プライドが高くて、階層に固執しがちというか」  恭太郎は大きめのレジャーシートを草むらに広げた。手招きされ、どこに座ろうか迷っていると舜が仰向けに大胆に寝そべり、鳴海は端っこに体育座りした。  そもそも一人で食べるつもりが、恭太郎のお誘いを断るのは申し訳なくて、何となくついてきてしまった……。 「あのグループ、高校から入ってくるなり人気が出た舜君のことをずっと敵視してるんだ」 「放置しておくに限る」 「いや、でもさ、舜君? ナイフまで使って脅してくるなんて、いくら何でも度を超えてるよ」  あぐらをかいて、彩り豊かなランチボックスを手にする恭太郎は、屋上で起こった出来事は舜から聞いていたと鳴海に明かした。 「丹羽達の行動にもびっくりしたけど、助けてくれた一年生がいたって聞いて、もっと驚いたよ?」 「助けたなんて大袈裟です。俺は声をかけただけで……」 「だから心配になった」 「心配……?」 「舜君と仲良くなった一年生に矛先が向くんじゃないかって。中庭でも丹羽のグループがいないか気にはしていたんだけど。さっきの様子を見ると、やっぱり鳴海君にも目をつけたみたいだ」 (特に仲良くなっていない)

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