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 鳴海は恭太郎の誤解が気になった。頭の後ろで両手を組んで仰臥する、長い足が地面に食み出ている舜にチラリと目をやる。 「また卵サンドか」  リュックから鳴海が取り出したサンドイッチに舜は視線を注いでいた。 「……澤さんは大丈夫なんですか。澤さんこそ、御堂さんと幼馴染みで仲がいいですよね」  舜の言葉を無視して尋ねてきた鳴海に、恭太郎は迷わず言いきる。 「それなら俺は大丈夫。あのグループ、ベータには眼中ナシだから。たとえ舜君の幼馴染みだろうとスルー。空気扱い」 「階層重視のアルファ至上主義だからな」 「オメガ性の人に対して露骨に態度が悪くて、中学から正直ずっと頭に来てる。何か言っても空気扱いされるけど」  二人が会話する傍らで鳴海は密かに懸念した。  もしもウテルス・オメガだと知られたら。  彼等はどんな嘲笑や罵倒を浴びせてくるだろうか……。 「鳴海」  舜に名前を呼ばれた。癖づいているマイナス思考に頭の中を蝕まれていた鳴海は、俯いた。 「交換しよう」  飽きもせずパンの交換を強請ってきた彼に、反射的に苦笑してしまう。 「今日はこれだ」 「舜君、それって卵サンド? 同じパンを交換するんだ?」 「食べ比べするのも楽しいだろ」  舜から手渡された卵サンド。耳つき食パンの間に、細かく刻んだパセリとブラックペッパー入りの卵サラダがぎっしり詰め込まれている。中身が零れないよう両手で持って、鳴海は一口齧ってみた。 「……おいしい……」  一言の感想と共に零れた笑みが、感情に乏しい顔を飾る。 「……ありがとうございます」  鳴海は無垢なる笑みをすぐに引っ込めた。コンビニの卵サンドを頬張る舜は「交換したから対等だ」と、淡々と返した。 「なぁ、舜君。丹羽達と極力関わりたくなくて、今回も放置したいのかもしれないけど。さすがにナイフの一件は先生に報告したら? むしろ警察に通報してもいいレベルじゃ?」 「もっと心配してくれ、恭太郎。大事にされてる実感が湧いて幸福度が上がる」  恭太郎は一つ年上の幼馴染みに茶化されても憤慨せずに、黙々と卵サンドを齧っている鳴海を見、真っ当な苦言を呈した。 「鳴海君にまで危害が及んだら、どうするんだよ?」  頬の上で葉陰と日の光がせめぎ合い、眩しさに目を細めるでもなく真摯な眼差しを湛え、舜は答える。 「そのときは俺が守る」

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