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4-1-ゴールデンウィーク
歓迎遠足は無事に終了して月が変わり、五月の大型連休に突入した。
「鳴海、どこにも遊びにいかないんだ?」
今月の後半には中間考査が控えている。鳴海は自宅にこもって自主勉強にコツコツと取り組んでいた。
「気分転換に外出するのもいいかもしれないよ?」
混雑が予想される休日の街へ行く予定がない鳴海に、父親は従いかねるアドバイスをしてきた。
「一ノ宮先生に連絡をとってみたらどう?」
一ノ宮は鳴海の中学時代の担任教師だった。
ウテルス・オメガの件を把握しており、三者面談では毎回丁寧な物腰で相談に応じた教師のことを父親はとても信頼していた。卒業式の際には、今後も我が子と交流を持ってほしいと懇願する程の入れ込みようだった。
(確かに先生にはお世話になった)
三年間、親身になって接してくれた担任に、教え子なりに鳴海も感謝していた。凛聖学園の推薦入試にあたっても、面接の練習、志望理由書の添削など、一ノ宮の指導のおかげで乗り切ったと言ってもよかった。
『いつでも鳴海君の相談に乗りますよ』
メールアプリにも互いのアカウントを登録している。が、多忙を極める教師に遠慮して、卒業後は一切連絡をとっていなかった。
(……気分転換か、勉強の息抜きにちょっとくらいなら)
休日出勤の父親を見送り、掃除や洗濯を済ませた鳴海は、爽やかな五月晴れの中に身を投じた。
(正門から家まで徒歩十分、だったかな)
舜がよくパンを買ってくるベーカリーへ行くつもりだった。自宅が学園の近くだという彼が登校前に立ち寄っていたのだから、その店も近辺にあるに違いない。
紙袋に印刷されていた店名を携帯で検索し、いつもと同じ停留所でバスを降りた。すぐ鼻の先にある凛聖学園の正門とは真逆の方向へ、制服ではなく私服で、いつもと違う場所を目指す。
バスの窓越しに眺めていた街並みを初めて歩いてみると、見慣れてきたはずの景観、鼻先を掠める空気が五感に新鮮で、不思議と弾んだ気持ちになった。
表通りから一歩裏道に入ったところにある、ガラス張りの外観がぱっと目を引く真新しい建物。店頭に立てかけられたブラックボードには人気商品のイラストが描かれており、どのパンも食べた覚えがあった。
両開きの格子ドアを開けようとした鳴海は、空中でピタリと手を止める。
陳列された出来立てのパンを物色する客の中に舜を見つけ、口元が独りでに綻んだ。
(どれだけお気に入りなんだろう)
思いがけない鉢合わせに仄かな昂揚感が先走る。胸の奥がじんわり温かくなった。
舜の連れに気がつくと、その切れ長な双眸は俄かに波打った。
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