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彼よりも年下に見えた。線の細い少年だった。焦げ茶色の髪に白磁色の肌。寄り添う舜を雛鳥さながらに信頼しきった様子で見上げる、淡く濡れた瞳。
正午前で店内は混んでいた。トングを手にする少年は、どのパンにしようか迷っている。他の客の邪魔にならないよう、トレイを持つ舜は庇護欲を掻き立てる肩に節くれ立つ手を添え、自分の方へ引き寄せた。
「あの、すみません……」
来客の邪魔になっていた鳴海は、慌てて横に身を退かす。
相手に謝ろうとしたが、喉に突っかかって声がうまく出せなかった。
(あの子はオメガだ)
一目でわかった。舜にとって大切な存在であることも。彼の包容力を独り占めし、密に寄り添われて屈託なく笑う姿はどこか幼く、可憐だった。
鳴海は目的地にしていたベーカリーの前で踵を返した。
些細な一瞬は痕がつきそうなまでに目に焼きついて、心には、ぽっかりと穴が空いていた。
(……どうしてショックを受けているんだろう……)
「……え……?」
鳴海は息を呑む。
背後から腕を掴まれたかと思えば、雑踏を行き交うノイズをものともしない、よく通る声が頭の中に響き渡った。
「やっぱり、鳴海だ。見間違いじゃなかった」
怖々と振り返り、舜と目が合うと、心臓が跳ねた。
「何してるんだ? 誰かと待ち合わせか?」
「……散歩です」
「散歩? バス通学だっただろ? わざわざここまで歩いてきたのか?」
その場しのぎの嘘など造作なく見破りそうな鋭い眼に覗き込まれる。いつになく強い力で腕を捕らわれ、鳴海は眉を寄せた。
「ああ、悪い」
力は弱めたものの、鳴海の腕を離さずに舜は詫びる。普段のモッズコートとは違う、ネイビーのブルゾンを羽織った私服姿の彼は、数多の通行人の視線を掻っ攫っていた。
(月みたいにキラキラしてる)
日の当たる路上で舜と向かい合った鳴海は、ぼんやりとそんなことを思う。
「何してるの? どうしたの……?」
舜の肩の向こうに先程のオメガが姿を現すと、我に返った。明らかに強い繋がりで結ばれている二人から今すぐ離れたくなる。だが、まだ腕を掴まれていて、逃走は叶わなかった。
「舜兄、まさかナンパしてるの?」
少年の言葉に鳴海は耳を疑う。
「鳴海は俺の後輩だ」
「いきなりトレイと財布を僕に押しつけて外に出ていったから、よっぽどタイプの人でも見つけたのかと思った」
極端に身長差のある舜を見上げていた少年は、鳴海に向き直った。白磁色の頬をほんのり赤く染め、ぺこりと一礼する。
「いつも舜兄がお世話になっています。僕は弟の碧 です」
あどけなさを漂わせながらも礼儀正しい舜の弟・碧に挨拶されて、鳴海も短く自己紹介した。
「久世鳴海さん、ですね。どうもはじめまして!」
アルファの兄とオメガの弟。
「第二の性」のみならず、雰囲気や顔立ちなど似ても似つかない兄弟だった。
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