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5-1-先生
五月中に行われた中間テストはまずまずの結果に終わった。
六月に入ると文理選択の調査があり、鳴海は文系を選んだ。将来について明確なビジョンはなく、とりあえず得意分野を育てていこうと決めた上での選択だった。
「今日の日替わりは洋風か。油淋鶏と悩むな」
雨の日のカフェテリアはたくさんの生徒で賑わっていた。特別教室棟の一階フロアの大部分を占めており、カラフルな配色のイスにソファ席まで並んでいる。まるでフードコートを彷彿とさせるレイアウトであった。
「鳴海。クリームコロッケと油淋鶏、交換しないか」
「俺の唐揚げと交換しようよ、舜君」
「クリームコロッケがいい」
(それなら俺と同じ日替わりにしたらよかったのに)
窓際の角に位置するソファ席。向かい側に座る、長袖を腕捲りした舜とランチのおかずを交換した鳴海は首を傾げる。
(この人、弟の碧君にもこんな風に駄々をこねたりするんだろうか……?)
「見て、またあの一年と食べてる」
「オメガの外部生が、どうやって御堂先輩に取り入ったんだろ?」
屋内のカフェテリアにいると、中庭よりも周囲の会話が耳に届く。教室でも似たり寄ったりな話を常々聞かされている鳴海は、素知らぬ風を装った。
(毎日続くとさすがに疲れる)
雨の日が増え、教室で食事をとろうとしたら「俺のオススメを一回くらい食べてみろ」と舜に連れ出され、避けていたカフェテリアを利用するようになった。
「鳴海はサラダも残さず食べるんだな。碧は未だにポテサラのキュウリを避ける」
弟が本調子を取り戻したので、手頃な下級生を代用として構い、有り余る長男の保護欲でも満たしているのか……。
「鳴海の皿にあると旨そうに見える」
「それさ、俺のお皿だとおいしく見えないってこと?」
(過保護なのか、我侭なのか、よくわからない)
幼馴染み同士の二人が砕けた調子で雑談をする中、鳴海はこっそり笑った。
「――オメガのくせに図々しい」
教室に戻れば、舜がいない分、陰口に含まれる悪意は増した。アルファ性の内部生によるもので、中学時代にもアルファのクラスメートから中傷された経験がある鳴海は、なるべく相手にしないようにしていた。
(スクール・モットーとは正反対の方針をとる生徒もたくさんいる)
気を取り直し、ロッカーに仕舞っているスクールバッグに財布を入れる。何気なく携帯をチェックして一件のメールに気がついた。父親かと思いきや、意外な人物からのメッセージに鳴海は驚いた。
雨の降り頻る放課後、自宅マンションの近くにある、バス通り沿いの喫茶店へ鳴海は寄り道した。
「卒業式以来ですね、鳴海君」
待ち合わせをしていた相手、中学時代の担任だった一ノ宮貴文 に立って出迎えられる。彼の注文したホットコーヒーが湯気と香りを漂わせる奥のテーブル席へ、鳴海は小走りになって進んだ。
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